富豪の娘アレッサンドラは、裕福な家庭に育ち、絵画を学んでいたが、一日中ボディガードに守られた生活を窮屈に感じていた。ある日、ミケーレというスリの青年が、アレッサンドラの財布を盗むが、彼女の美しさに惹かれたミケーレは、次の日、彼女に財布を返しにくる。ミケーレがスリだと知って警戒してしまうアレッサンドラだったが、日ごろの不自由な生活から逃れたいという気持ちもあって、ミケーレに誘われて美しい海岸にバイクでデートに出かける。ミケーレとアレッサンドラは、二人っきりの時間を過ごすうちに、互いに惹かれあい、愛し合うが、娘が帰宅しないことを心配したアレッサンドラの両親は、誘拐事件と判断し、警察に捜査を依頼していた・・・。

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　１９８０年イタリア・日本合作。監督は増村保造、出演は、ロニー・バレンテ、レオノーラ・ファニなど。スリの青年と富豪の娘という身分の違う男女の純愛を描いた恋愛映画。

 

　日本人監督の作品という事もあり、８０年代のはじめ、映画雑誌などでも大きく取り上げられて話題になった恋愛映画です。何と言っても映画のポスターに使われた主演の二人のヌード写真の美しさだけでも注目されましたが、親に反対される禁断の愛という古典的なテーマを使った作品を、聖書のアダムとイブのイメージに重ねた浮世離れしたロマンティックな恋愛映画として人気がありました。増村保造監督は、映画監督としてだけでなく、７０年代に日本で絶大な人気のあった『ザ・ガードマン』や、山口百恵さんが主演の『赤い衝撃』などのテレビドラマの演出、脚本を手がけていたので、この作品でも、７０年代に日本で人気のあったドラマと共通の空気が感じられ、出演者こそイタリア人ですが、７０年代を過ごした方にとっては、何か懐かしさが感じられる作品になっています。また、男女の恋愛、性を描くのが得意な監督らしい絵画的な映像美も独特の雰囲気を持っていて日本人の感性に合った作品で、犯罪を生んでしまう世の中への批判や、貧困に苦しむ人間の犯罪と、富豪の悪事を並べて、どっちが悪いのかを考えさせるような深遠なテーマや、人間の利害関係による醜い争いの世界から脱出して、地上の楽園で二人きりで生きたいという至上の愛が描かれている所も凄いと思います。しかし、一般的な映画評で考えると、テレビドラマの域を脱していないカットが多く、ラブシーンが強調されてしまっているので、作品の深いテーマ伝わりづらいのが残念です。深遠なテーマと美しいラブシーン、アメリカン･ニューシネマのようなリアリズムがありながらも、エンディングには希望が感じられ好感が持てます。７０年代の時代の空気をたっぷりと吸い込めるような作品なので、ファンも多いと思いますが、残念ながら、時代の流れには勝てず、完全に埋もれてしまっています。

人を見たら泥棒と思え

　お金持ちになると、泥棒や詐欺師に財産を奪われないように疑い深くなってしまいます。せっかく裕福な生活をしていても人間が信じられなくなってしまったら、あまり楽しい人生とは言えないかもしれません。逆に、貧乏人は、金持ちを妬み、富を奪おうと悪徳に走ってしまう・・・。どっちにしても不幸な気がしますが、そんな世の中だからこそ、二人は、自分たちだけの楽園を求めたのかもしれません。悲観的過ぎるかもしれませんが、この映画の主人公の気持ちに共感できる方も多いのではないでしょうか？

泥棒をただ泥棒だと思わないの

　泥棒＝悪人と考えないアレッサンドラの感性は、世の中に対する皮肉かもしれません。なんとか生きるために、あるいは、愛する人の為に仕方なく泥棒をしている人もいる、泥棒をしないと生きて行けない世の中が悪いというメッセージにも聞こえます。裕福に暮らしていても、悪評の絶えない父親に対して反発するアレッサンドラの態度にも、そんな世の中の見方が感じられます。

ここなら見つからないよ

　ミケーレとアレッサンドラがやって来た海岸は、誰にも見つからないような場所で、二人は解放的な気分で愛し合います。海辺で戯れるスローモーションのラブシーンは時代を感じさせますが、お互いの体に花を描くシーンは独創的で美しく印象に残ります。でも、この世の中に、誰にも見つからずに過ごせるエデンの園のような場所なんて、もう無いのかもしれませんね。

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