2003年日本作品。監督は新藤兼人 、主演は、『男はつらいよ 寅次郎頑張れ!』の大竹しのぶ、『BANDAGE
バンデイジ』の伊藤歩など。東北の貧しい農村で、生きていくために男たちを誘惑して生活費を稼ぐ母と娘を描いたブラックコメディ。
日本映画界を代表する名監督新藤兼人による名作で、モスクワ映画祭で高い評価を得て賞を受賞しています。満州事変、開拓部落の失敗などの流れから生活苦に陥り、生活のための売春、猟奇的な殺人事件を繰り返す母娘が主人公というシリアスな物語ですが、毒殺シーンでは、出演俳優の個性を十分に引き出した上でユーモアたっぷりに描きサイコスリラーのような生々しさを排除し、暗いテーマの作品を娯楽作品として最後まで楽しめるように工夫されています。主人公の親子が住む一軒家が舞台で、派手な映像や特撮は無く、低予算でこじんまりとした作品ですが、重くなり過ぎないようにユーモアを効かせて映画としての娯楽性を重視しながら、お上の都合で人生を翻弄される貧乏人の悲哀というテーマを強く印象付ける事に成功しています。新たな領土の開拓者として満州に渡り、戦争の犠牲者となった主人公のユミエは、帰国すると東北の開拓村への移住をすすめられて東北の山奥へ、しかし、痩せた土地で作物が育たない環境だという事が分かり、開拓部落の人々は離村する羽目に。そして極めつけは、ユミエの親戚が金持ちに手篭めにされた事を苦に自殺。これでもかと言うほど政府や金持ちに痛めつけられる貧乏人を描いた物語としては、重すぎますが、今も昔も、これが現実なんだと訴えてくるメッセージ性の強い作品です。主演の大竹しのぶさんは、本作で、モスクワ国際映画祭最優秀女優賞受賞していますが、まさに彼女の女優としての力量によって成り立っている作品です。娘役で出演している伊藤歩さんは、岩井俊二監督作品の常連として有名な実力派で、本策ではオーディションに参加した200人の女優さんの中から選ばれただけあって、鬼気迫る演技で見る者の心を捕らえます。なんと言ってもこの二人の恐ろしいほどリアルな演技が見所の作品ですが、柄本明、田口トモロヲ、原田大二郎、池内万作、蟹江一平、大地泰仁、木場勝己などクセのある俳優人の個性も魅力です。女性による猟奇殺人事件というストーリーは、フランス映画の秀作『地獄の貴婦人』を思い起こさせますが、猟奇殺人事件をメインテーマにしているわけではないので、殺人シーンには全くリアリティが無く、場折れんスシーンが苦手な方でも十分に楽しめます。そして、コミカルに描かれている前半に比べて、クライマックスシーンでは、社会の犠牲になった人間の心の叫びが爆発し、心が揺さぶられます。重いテーマの割りにエンディングはすっきりしていて、観終わった後に陰惨な気分になることもありません。一般的な人気はイマイチでしたが、何年か後になって再評価され、見直されるような気がします。
伊藤歩さんが出演しているという事だけで鑑賞しましたが、なかなか凄い作品でした。最近では、あまり映画の題材にならないシリアスなテーマを、お金をかけずにコミカルに描くことで娯楽性とメッセージ性をうまくまとめた秀作でしょう。本作は、311東日本大震災、原発事故によって避難を余儀なくされた人にとっては共感できる部分が多いはずです。国や自治体の指示に従って避難したり留まったりしている人は、お上の言葉を信じているわけですが、本当に住んでいて大丈夫なのか?避難しなくもいいのか?という疑念は、日々強くなるばかりです。この作品の主人公のように、何年かして騙されていたと気付く日が来るのかもしれません。
税金をムダに使いたいの
こんなブラックジョークも出てきます。無駄な工事をして税金を使いきろうとする自治体が多いのは有名な話ですが、その税金は、私たちが必死に働いて収めたお金です。笑うに笑えないジョークですね。