1977年日本映画。監督は『学校』『息子』『幸福の黄色いハンカチ』の山田洋次。出演は、渥美清、倍賞千恵子、中村雅俊、大竹しのぶなど。日本を代表する長寿シリーズ『男はつらいよ』の20作目。
この作品が製作された当時、テレビドラマ、映画で大活躍していた中村雅俊、大竹しのぶという2大スターをゲストに迎え、寅さんが若い二人の恋愛を手助けするというストーリーを前面に打ち出した作品で、『現役を引退して、コーチに就任か?』というセリフの通り、主役の寅さん以上に、若い二人の恋愛が印象に残る作品です。後半になって、寅さんが良介の姉に惚れてしまうので、まだまだ現役としての寅さんの恋愛も健在ですが、笑いを交えながら若者の純愛を描いた恋愛映画の傑作というイメージが強く、九州出身の良介と、東北出身の幸子という地方出身者同士の恋愛には、最近の恋愛映画には無い純真さが感じられ、今観ても新鮮な感動が味わえます。寅さんが恋をするマドンナを演じている藤村志保さんは、歴代のマドンナの中では地味な存在ですが、なで肩で和服の似合う清楚な雰囲気の美人で、寅さんにお似合いのマドンナとして応援したくなる魅力があります。『男はつらいよ』シリーズの後期の作品では、若い二人に寅さんが加わった三角関係を描いた作品がですが、この作品では、若いカップルの恋愛と寅さんの恋愛がそれぞれ別になっているので、2組の恋愛を楽しめる作品で、シリーズ後期の満男と寅さんの恋愛を描いた作品に近いと思います。中村雅俊と大竹しのぶが演じているカップルの恋愛の比重が大きいので、シリーズ初期の作品が好きな方には、ちょっと不満が残るかもしれませんが、恋愛映画としてもコメディ映画としても完成度は高く、『男はつらいよ』シリーズのファン以外にもオススメできる作品です。
長髪にジーンズ、靴を履かずに下駄を愛用する中村雅俊のスタイルは、70年代に人気のあったテレビドラマ『俺たちの旅』でのキャラクターそのままです。『俺たちの旅』は、ファッションスタイルだけでなく、視聴者の人生観にも大きな影響を与えた伝説的なドラマとしていまだにファンが多く、中村雅俊さんのファンなら、この作品も絶対に見逃せない作品だと思います。特に、藤村志保さんが演じている姉の藤子に、寅さんと結婚する気があるのか!と厳しく問いかけるシーンには、『俺たちの旅』で演じていたような正義感の強いキャラクターが反映されているような気がします。『俺たちの旅』がテレビで放映されていた頃、私はまだ小学生でしたが、主人公の生き方に感動したのを覚えています。高校生になってバンドを始めた頃に長髪にしたんですが、天然パーマの私の髪の毛は、まっすぐに伸びてはくれず中村雅俊さんのような髪型になってしまい、近所のガキに中村雅俊に似ていると言われていました。もちろん顔は全然似ていなかったんですが、髪形がソックリだったらしいんですよね。顔も似ていればモテたんでしょうけど、似ていたのは髪形だけだったので、モテなかったなぁ・・・。
俺はあの家が好きだったんだ
このシリーズでお馴染みのオープニングでの寅さんの夢が異色です。夢のシーンは、映画や昔話のパロディで遊び心のある映像が多いんですが、この作品では、とらやのメンバーが大金持ちになり、寅さんが昔の家や、食べ物を恋しがるという悪夢が描かれ、金持ちになっても慣れ親しんだ愛着のある物を取り上げられてしまうと、不安になってしまう人間の心理、金持ちになれば幸せというわけでは無い事を実感させられます。
最初来た時は無愛想な男で・・・
良介は、付き合ってみるといい奴なんですが、口下手なせいで第一印象が悪く、無愛想な男と思われています。口下手な人間は、よく誤解されてしまいますが、初対面でニコニコ近寄ってくるような人間の方が、実は、腹黒い人間だったという事がよくあります。第一印象だけで人間を判断してしまうとロクな事は無いので気をつけた方がいいですね。
悲しい事があっても、我慢して笑ってれ
良介とのデートで、幸子が父親の思い出を語るシーンが、この作品で一番泣けるシーンかもしれません。大好きな父親が死んでから泣いてばかりいた幸子が、立ち直るキッカケになったおばあさんの一言は、私たちにとっても素晴らしいアドバイスになると思います。