岩手で農業をしながら一人暮らしをしている昭男の家に、母親の一周忌で、長男の忠司、次男の哲夫たちが帰ってきて、久しぶりに家族揃っての時間を過ごす。東京でサラリーマン生活を送る長男の忠司夫婦は、父親の昭男と同居する為にマンションを購入するが昭男は、岩手で一人暮らしをすることを望んでいた。一方、次男の哲夫は、定職に就かず、東京でフリーターをしていたが、新たに就職した鉄工場の取引先のＯＬに一目ぼれしてしまう。ある日、戦友会に出席する為に上京してきた昭男は、哲夫の住むアパートを訪ねるが、哲夫から、結婚したい女性がいると打ち明けられる・・・。

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　１９９１年、日本作品。監督は、『幸福の黄色いハンカチ』『男はつらいよ』シリーズなどの山田洋次、出演は、三國連太郎、永瀬正敏、和久井映見、原田美枝子、田中邦衛など。東京で働く二人の息子と、郷里の岩手で農業を続ける父親の愛情を軸に、過疎問題を描いた感動作。

　親子の絆や恋愛をテーマにした感動作ですが、過疎問題、農業軽視の政策など、現代の日本社会の問題点を浮き彫りにした社会派作品でもあります。日本人の感性を描かせたら右に出るものはいないであろう山田洋次監督の傑作で、特に地方出身者の方にとっては共感できる要素の多い作品だと思います。成績が良く優等生の兄と、出来が悪くフリーターをしている弟という兄弟と父親の関係は、聖書の物語を思い出させる深いテーマが感じられ、聾唖者に恋をしてしまう主人公の哲夫の一途な恋愛感情も感動的ですが、経済が首都に集中してしまう事によって、過疎化が進み、家族が一緒に生活できない日本社会の問題、高齢者の一人暮らしなどシリアスな問題もリアルに描かれています。日本映画界を代表する名優が多く出演し、身近に感じられる庶民的なキャラクターをリアルに演じているので、派手さはないものの、現実味のある感動を味わえます。山田洋次監督が、一貫して問題提議している過疎問題については、自分が経済的に豊かな暮らしをする為に、親を捨てるのか？と問われているようで、複雑な気持ちになってしまいますが、まるで自分の事のように身に沁みる感動が感じられる作品です。地方出身者が主人公の作品なので、都会で生まれ育った方には、実感できない部分もあると思いますが、親子の絆を描いた感動の名作としてオススメです。

　この作品には、悪人が出てきません。きわめて庶民的で善意のある人ばかりが出てくるので、心が癒されますが、哲夫の恋人の征子の存在感が際立っています。耳が聞こえないというハンディキャップがありますが、善意に満ち溢れた天使のようなオーラがあり、頑固な父親の昭男でさえも癒されます。探そうとしてもなかなか見つからないと思いますが、こういう悪意の無い、人を幸福感で満たしてしまうような人がお嫁さんになってくれたら最高でしょうね。やはり、容姿の良し悪しよりも人間性が重要だという事を実感させられます。

それがどうしたってんだ

　あんなに美人なのに、耳が聞こえないんじゃなぁ・・・。こんな言葉に哲夫が激怒します。五体満足でも人間的に最低な人もいますし、ハンディキャップがあっても心の優しい人もいます。容姿の良し悪し、障害の有無によって人間を評価することはできませんよね。

いつまで心配させれば気が済むんだ？

　子供の頃から父親に心配ばかりさせている哲夫ですが、父親の昭男は、心配をするのが楽しそうにも見えます。親を安心させるのが親孝行だと思いますが、親の立場からすると、手のかかる子供の方がかわいいのかもしれません。

経済の仕組みが・・・

　炎天下で汗水流してもロクに稼げない・・・。なぜみんな都会に行くのか？地方よりも都会のほうが給料が高く、経済的に豊かな生活ができるというのが最大の理由だと思いますが、農業に従事している人の為の政策が不十分だという基本的な問題もあると思います。農家の票を得る為に、選挙のたびに農家に対する支援などの公約がなされますが、根本的な解決策、法律が作られないまま、国内の自給率は下がる一方です。農業では生活していけないという現状を変えなければ、過疎の問題も悪化する一方でしょう。

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