バスチアンは母親を亡くしたばかり、しかも学校ではいじめられて落ち込んでいた。本を読むことだけが楽しみだったが、いじめっ子に追いかけられて逃げ込んだ古本屋で不思議な本を見つけ、その本に夢中になる。その本のストーリーは、ファンタージェンという名の国が、正体不明の力で次々に崩壊し、その国の女王も病気になってしまった為、ファンタージェンと女王の命を救う為に一人のアトレーユという勇者が旅に出るという話だったが、バスチアンは、本を読んでいるうちに自分もその物語の中に入っていってしまう・・・。

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　１９８４年西ドイツ作品、監督は『Ｕボート』『アウトブレイク』などのウォルフガング・ペーターゼン。主演のバスチアン役は、『コクーン』などのバレット・オリヴァー。人間の子供が夢や希望を失ってしまった為に、崩壊しかけているファンタージェンという国を救おうとする少年の物語。大人から子供まで楽しめるＳＦ映画の傑作。

　子供向けの作品として考えている方も多いと思いますが、大人が観ても楽しめる作品です。本を夢中で読んでいると、いつの間にか自分も、その物語の登場人物の一人になっていた・・・。読書家の方や、子供にとっては、たまらなく魅力的な物語で、１９８４年作品なので映像的には古さが感じられるものの、逆に舞台劇を見ているようなイメージで楽しめるので、子供のいる方なら一度は一緒に見たい作品だと思います。人間が絶望して夢を見なくなった為に、想像の世界が崩壊していくという設定は、夢を持てなくなり絶望的な人生を送っている現代人にとっては、強烈な皮肉としてもインパクトがあると思いますし、巨大なカメ、モーラの何事にも執着しない態度は、まるで仏教徒のような心の静けさを感じます。『ピーター・パン』などにも同じようなコンセプトが感じられますが、忙しい日常生活に忙殺され、童心を失ってしまった大人の方にもオススメの作品です。ただ、ちょっと残念なのは、この作品のエンディングで主人公が、いじめっ子たちに復讐するシーンが加えられている事。この作品の原作者も、このシーンの削除を強く主張したらしいですが、子供向けの作品だからこそ、報復、復讐などの場面はカットしてもらいたかったですね。

人間の作った世界

　映画や、アニメーション、ゲームなど、現実の世界とは違った世界を創造した作品は多いですが、アニメやゲームが子供に浸透すればするほど、子供たちの想像力が失われてしまうのかもしれません。与えられた世界、キャラクターに夢中になるのも悪くは無いと思いますが、人それぞれの想像力を伸ばす為には、映像も音も無い読書が一番いいのかもしれません。

真実の自分の姿を見る

　この作品の主人公アトレーユが旅の途中に関所を通りますが、鏡に映った真実の自分と対面しなければならないという場面は意味深です。ほとんどの人が自分を善人だと信じていると思いますが、生死に関わるような状況になると、人間の本性があらわれます。自分でも分らない真実の姿を見ることのできる鏡があったら最高ですね。選挙の前に政治家の皆さんに鏡の前に立ってもらって、悪人かどうか確かめてから投票できるようになれば便利です。もっとも、そんな事をしたら、候補者がいなくなってしまいますかね。

 

テーマ曲も大ヒット

　映画も大ヒットしましたが、リマールの歌うテーマ曲も世界中で大ヒットしました。映画のイメージを象徴する名曲で、勿論サウンドトラックアルバムにも収録されていますが、８０年代を代表するヒット曲なので、オムニバス盤などにも収録されています。

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