1999年アメリカ作品。監督は、『ザ・フォッグ』のルパート・ウェインライト。出演は、『トゥルー・ロマンス』のパトリシア・アークエット、『ミラーズ・クロッシング』のガブリエル・バーンなど。キリストが十字架で負った傷と同じ場所から出血する聖痕現象をテーマにしたオカルトホラー。
どうせB級ホラーだろうと、あまり期待せずに観ましたが、予想以上に内容の充実した作品で驚きました。スプラッター系のホラー映画のように、グロテスクな映像で恐怖をあおるのではなく、神秘的で不思議な感覚をうまく映像化し、都会的な女性と、神の存在を疑う科学者という対照的なキャラクターを使うことによって、映像的にも、ストーリー的にも、見ごたえのある作品になっています。『インディアン・ランナー』『トゥルー・ロマンス』『救命士』などに出演しているパトリシア・アークエットは、セクシーな魅力の中にも、どこかあどけなさが残る魅力があり、ガブリエル・バーンの深い知性が感じられる神父役とのコントラストが絶妙です。悪魔や邪悪な存在を強調して恐怖心をあおるようなタイプの映画ではないので、怖い映画が観たい人には、不満が残るかもしれませんが、ブルーを基本にした映像美、映像と音楽のマッチングも芸術性が高く、洗練された映画に仕上がっています。
失われた福音書
この映画の重要な要素になっているのが『トマスの福音書』。聖書には、イエス・キリストの弟子たちによる福音書が収録されていますが、実は、バチカンから異端とされて認められていない福音書が他にも存在します。この映画を観るまで、私も知らなかったのですが、『トマスの福音書』は、聖書研究家の間では、生前のイエス・キリストの言葉に近い言葉がいくつも出てくると福音書として知られているそうです。個人的には、この福音書の存在を知ることができたのが、最も大きな収穫でした。私はキリスト教徒ではありませんが、イエス・キリストやブッダの教えは、人間にとって最高の叡智だと思っているので、埋もれていた宝を見つけたような興奮がありました。私もすぐに購入しましたが、日本語訳された『トマスによる福音書』という文庫本も発行されています。