１９３９年、ドイツのハンブルクから客船セントルイス号が出港する。この船はナチスドイツの迫害から逃れようとする９３７人のユダヤ人を乗せていたが、目的地であるハバナでは、ユダヤ人の入国を許可するかどうか政治的な駆け引きで上陸許可が出ない可能性が高まっていた。ナチスドイツとしては、入国を許可した国はドイツとの国際関係が悪化することが必至な為、どこの国にも入港できないという計算があり、この航海をユダヤ人が全世界から嫌われているというイメージを宣伝する目的があった。ナチスドイツの目論見どおり、ハバナに入港後、入国を拒否されたセントルイス号は、ハンブルグへ向け出航、絶望感から死を選ぶ乗客も出てきてしまう・・・。

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　１９７６年イギリス作品。第２次大戦直前、ドイツから脱出するユダヤ人を乗せた客船の航海を描いた実話の映画化。製作はロバート・フライヤー、監督は『暴力脱獄』『ブルベイカー』など社会派作品が得意なスチュアート・ローゼンバーグ。出演は、オスカー・ヴェルナー、マックス・フォン・シドー、リー・グラント、オーソン・ウェルズなどの往年の名優の他、『時計じかけのオレンジ』のマルコム・マクダウェル、『明日に向かって撃て！』のキャサリン・ロス、『荒野の処刑』のリン・フレデリック、『俺たちに明日はない』のフェイ・ダナウェイなど超豪華な出演者で製作された大作です。

　ナチスドイツに迫害を受けるユダヤ人の運命を描いた実話で、豪華キャストの出演も話題になった大作ですが、あまりにも暗いテーマなので、すでに埋もれてしまっているような感がありますが、歴史に残る名作のひとつだと思います。行き場を失いパニックに陥る乗客たち、政治的かけ引きに奔走する政治家など、かなり生々しく描かれ、乗客の様々な人間模様、各国の政治的な利害関係などがリアルなドラマになっています。また、個性的な出演者のキャラクターが映画の価値を高めています。マックス・フォン・シドー、フェイ・ダナウェイ、オーソン・ウェルズの圧倒的な存在感は言うまでもありませんが、リン・フレデリックの人間離れした美しさは、ひときわ印象に残ります。

人を信用するには、時間がかかるものだ

　信頼関係がなければ、約束や協定を結んでも裏切られる可能性があり、安心することは出来ません。個人レベルでも信頼関係を築くには時間がかかりますが、会社や国など、大きな組織間の利害関係は、個人レベルとは比べようの無いほど複雑で、全社員、あるいは全国民の運命が変わってしまいます。この作品でも国益を考えて政治のかけ引きが行われていますが、交渉を行う政治家の苦悩も生々しく伝わってきます。

何であろうと娘に変わりはない

　セントルイス号の乗客の様々な人生も描かれていますが、最も印象に残るのは、高級娼婦のミーラと両親が再会する場面です。高級娼婦として働いているミーラは、自分のコネを使ってセントルイス号にいる両親に面会しますが、派手な服装で大金を持つミーラを見て、両親はどんな仕事をしているか察してしまいます。母親は理由を聞きたがりますが、父親は、何も聞かず、親子の愛情を確かめあいます。このシーンのキャサリン・ロスの演技は、彼女のキャリアの中でもベストだと思います。

ＤＶＤは未発売

　映画としては、かなりの秀作だと思いますが、ユーモアもなく、シリアスなテーマの作品な為、一般的にはあまり人気がありません。国内盤ＤＶＤは未発売で、これからＤＶＤ化される可能性も低いので、中古ビデオテープを探す以外に鑑賞方法はなさそうです。海外盤のＤＶＤも廃盤になっていて高額になっていますし、海外ビデオテープも同様に高額になっています。

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