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ファイブ・イージー・ピーセス
 
Five Easy Pieces

●監督
ボブ・ラフェルソン

●キャスト
ジャック・ニコルソン
カレン・ブラック
ビリー・グリーン・ブッシュ

■ ストーリー ■

 

 ボビーは、ウェイトレスをしているレイと同棲し、カリフォルニア南部の石油採掘現場で肉体労働に従事していた。彼は音楽一家に生まれピアニストとしての才能に恵まれていたが、父親と対立して音楽とは全く関係の無い仕事で、その日暮の生活をしていた。ある日、ボビーは、ピアニストとして働いている姉のティタと訪ねるが、父の具合が悪いので見舞いに行って欲しいと懇願されてしまう。そして、ボビーは、レイと共に帰郷し、兄のカールと彼の妻キャサリン、姉のティタ、父親のニコラスに迎えられるのだが・・・。

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■ レビュー ■

 

 1970年アメリカ作品。監督は『郵便配達は2度ベルを鳴らす』などのボブ・ラフェルソン、主演は『イージー・ライダー』『プレッジ』などのジャック・ニコルソン。感受性が強すぎる為に、自分の居場所を見つけられない主人公の孤独を描いたアメリカン・ニュー・シネマの代表作。

 かなりの数の映画を観てきましたが、この作品の主人公ほど孤独なキャラクターは他にはいません。アメリカン・ニュー・シネマの傑作として人気のある作品ですが、この作品が人気があるという事は、それだけ孤独な人間が多いということかもしれません。この映画の主人公のボビーは、音楽の才能がありピアニストとして才能を生かすこともできるのに富や名声には一切興味が無く、教養や権威などで人間を判断せず個人の人間性を重視するタイプで、洞察力も鋭く、人間の感情を見抜く目も持っていますが、その分人間の嘘が分ってしまい、嘘や虚栄心に満ちたものに露骨に嫌悪感を示し、感情の抑制ができません。しかも気まぐれで、衝動的に行動するので周囲の人間にとっては、厄介な存在です。気まぐれで衝動的、自己中心的な人間のほとんどは、そんな自分の欠点に自覚が無く嫌われ者が多いと思いますが、この作品の主人公は、自分が疫病神のような厄介な存在だと自覚していて、他人に迷惑をかけたくなくないと悩んでいます。そして、どこへ行っても自分の居場所が無く、自分が居ると他人に迷惑がかかると知っているので、一箇所で生活ができません。こういう繊細な感性の映画が支持されたのは、時代的な背景もあるのかもしれませんが、もしかしたら、今の時代の方が共感できる人が多いかもしれません。自分の感性が社会一般の価値観とズレているとか、社会の中での自分の存在に大きな疎外感を感じている方には、一つの答えが出されている作品でしょう。ただ、主人公の生活を淡々と描いた作品なので、派手な見せ場は無く、エンターテイメントとして考えると娯楽性のある作品では無いので、娯楽作品としての派手な開放感や満足感を望む方にはオススメできません。

雪解けの前はな

 人間が不潔で町が汚いから、汚れの無いアラスカに移住したいという二人組みを車に乗せるシーンがありますが、この場面は暗示的です。アラスカが一年中雪に覆われていると思っている二人の女性のおバカ加減には苦笑しますが、大量生産、大量消費によって経済を維持している社会は、不要な商品を大量に生産し、多くのゴミを生み出して世の中をゴミだらけにしてしまっているというのは事実でしょう。不法投棄による土壌汚染、環境破壊などの問題は、現在では、かなり深刻化しています。この作品に出てくる二人の潔癖症的な意見は、極端ではありますが、都会での生活で繊細な感受性が失われ、鈍感になってしまった人間への警告、あるいは、環境破壊などに対する警鐘だったのかもしれません。

方々旅するのは、本物を求めてじゃなく・・・

 『俺が居ると、そこが悪くなるから逃げ出すだけだ・・・』、んー悲しいですね。あまりにも気まぐれで、怒りを制御できない人間がいると、学校や職場では空気が重くなるというか、雰囲気を悪くしてしまう事があります。こういうタイプは、いわゆる空気の読めないタイプが多いので本人は気にしていない場合が多いんですが、自分が原因で、周囲の人間に嫌な思いをさせてしまっているという自覚があると、かなり居心地が悪いですよね。映画の最後で主人公のボビーは北へ向かいますが、多分、どこに行っても居場所は見つけられないでしょう。


名シーン

何様だってんだ!

 インテリの友人たちとの会話の最中にボビーが怒り出します。理屈、能書きばかりで悦に入り、自慢げに人を非難し、傷つける人間に対して『高慢ちきの売れ残りババァ』と怒鳴り、怒りを爆発させます。ボビーは、理論が理解できないのではなく、能書きばかりで何の行動もせず、教養を武器にして人を傷つけるような人間が大嫌いなんでしょうね。『レイの方が人間的に優れている』という言葉にもスカッとした快感を感じます。

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ガイド

アメリカン・ニューシネマの憂鬱

 アメリカン・ニューシネマのほとんどの作品が、体制によって握りつぶされてしまう主人公を描いていますが、この作品は極めてプライベートな悩みを描いているので異色の作品と言えるかもしれません。体制を悪として描いて善良な人間が犠牲になる作品なら、世の中のシステムに対する絶望的なリアリティだけで済みますが、この作品は、自分自身の根源的な悪によって罪悪感をしょい込んでしまっているので、この作品の主人公に共感できる方は、他のアメリカン・ニューシネマの傑作よりも気が滅入るというか落ち込むと思います。怒りの矛先が体制では無く自分ですから・・・。

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