中世の時代、ドイツのブレーメンに住むジョナサン・ハーカーは、ドラキュラ伯爵との商談の為に長い旅に出た。ドラキュラ邸では、丁重なもてなしを受けて無事に契約書にサインをもらったが、ジョナサンが身につけいていたペンダントに入っていた妻ルーシーの写真を見たドラキュラ伯爵は、その美しさに魅せられてしまう。そしてルーシーに会うために旅に出るのだが・・・。

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　１９７８年フランス･西ドイツ合作。監督はヴェルナー・ヘルツォーク 、主演は『ドクトル・ジバゴ』などにも出演しているクラウス・キンスキーと、『サブウェイ』『イシュタール』などの イザベル・アジャーニ。吸血鬼映画の最高峰と言われる伝説的な名作。

　お化けや霊を信じないというわけではないのですが、私はお化けや霊が怖くはないので、ホラー映画を観ても恐怖を感じたり、寒気を感じることはありません。しかし、この作品だけは別です。映画のオープニングのミイラ、スローモーションで映し出されるコウモリの舞い、町を襲うネズミとペストの恐怖などは、まるで画面から冷気が流れてくるような寒気を感じます。そして、この作品が他のドラキュラ映画と決定的に違うのは、吸血鬼をテーマにした映画にも関わらず、画面に吸い込まれそうなほど美しい映像美と、映像の魅力を際立たせる効果的な音楽によって、吸血鬼の恐怖だけでなく中世ヨーロッパの美しさに心が癒される所でしょう。正直なところ、最初は、 イザベル・アジャーニが目当てで観たのですが、クラウス・キンスキーの演じるドラキュラ伯爵のキャラクターの強さ、イザベル・アジャーニが演じるルーシーの、まるっきり生気を失ってしまったかのような青白い美しさなど以上に印象に残ったのは、時空を超えて中世の空間に迷い込んでしまったよう感覚に陥るほどの映像美と、時に不気味で、時に癒しを感じさせてくれるような音楽によって作り出されている独特の空間でした。勿論、 イザベル・アジャーニのファンにとっては、この世のものとは思えない彼女の美しさを楽しめますが、 イザベル・アジャーニの美しさだけでなく、芸術的なほど美しい映像、音楽にも心が癒されると思います。ただ、ホラー映画には、刺激的な血みどろのシーンが不可欠と考える人には満足できないと思います。

死ねないことは、さらに残酷だ

　人の生き血を吸って生きている吸血鬼は死ぬことができない・・・。考えてみると、これほど最悪なことはないですね。周囲の人間は、寿命が尽きれば死んでしまい、生き残っているのは自分だけ、しかも、必ず自分だけが取り残されてしまい、常に別れの苦しみを味わい続けるわけですから、何よりも残酷な事かもしれません。不老不死を願う人もいるようですが、愛する人が必ず自分より先に死んでしまい、取り残される苦悩を何度も何度も経験しなければならないという事を考えれば、永遠の命なんて苦痛でしかないような気もします。

 

クラウス・キンスキー

　この作品でドラキュラ伯爵を演じているクラウス・キンスキーは、この作品の演技で高い評価を得ましたが、この映画に出演する為に生まれてきたんじゃないかな、と思わせるほどのハマリ役でした。この人は、１９７０年代に『テス』などに出演して活躍していたナスターシャ・キンスキーのお父さんです。

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