1975年日本映画。監督は『学校』『息子』『幸福の黄色いハンカチ』の山田洋次。出演は、渥美清、倍賞千恵子、樫山文枝、桜田淳子など。日本を代表する長寿シリーズ『男はつらいよ』の16作目。
寅さんが学問に目覚め、考古学を研究する女性に恋をする物語、山形で一文無しになった時に助けてれた女性と、その娘のエピソードが感動的に描かれた名作です。無知な為に苦労をしたお雪さんの人生を知った事をキッカケに、寅さんが、人間にとっての学問の重要性に気付くという深いテーマがベースになっていて、感動と啓発を与えてくれる傑作ですが、変わり者の教授として出演している小林桂樹さんと、お雪さんの娘役で出演している桜田淳子が抜群のアクセントになっていて、娯楽作品としても最高の作品です。昔世話になったお雪さんの娘の為に、寅さんが毎年仕送りをしていたというエピソード、寅さんが自分の父親だと信じて山形から会いに来た順子を歓迎するとらやの家族のドタバタなど、オープニングから号泣させられますし、田所教授の礼子さんに対する想いも感動的でとにかく泣ける作品です。柴又に戻った寅さんが勉強をはじめるというストーリーなので、とらやでの茶の間のシーンも多く、博や礼子、田所教授を交えての寅さんのおしゃべりには、ユーモアだけではなく、ハッとさせられるような名言や感動的な話もあり、饒舌な寅さんの本領を発揮した作品でもあります。そして、お雪さんの墓参りに訪れた寅さんが、和尚さんから学問について教えられるシーンは、全シリーズの中でも最も啓発的なシーンの一つになっています。今回は、マドンナが考古学を専攻する知的な女性という事で、色気、デリカシーに欠けるというのが難点と言えば難点ですが、お雪さんの娘役で出演している桜田淳子の初々しい魅力が、その点をカバーしているので、エンターテイメント性の高い泣ける感動作としてオススメできる作品です。
この作品の舞台になっている寒河江ではありませんが、私も昔、山形県に住んでいた事があります。日本海に面しているので、海沿いの町では、海に沈む美しい夕日を見る事のできますし、山間部では、山の四季の風景が美しく、アウトドアをたっぷりと楽しめましたが、給料が安く仕事が少ないので生活できずに引っ越してしまいました。寒さが厳しい、雪が多いなどの気候的な問題は我慢できましたが、仕事が無くては生活できません。山形に限らず東北地方は人件費が安くて仕事が少ないところが多いので、東北地方での田舎暮らしを考えている人は、その点を考慮して計画を立てた方がいいと思います。観光で行くならいいんですけど、住むとなると色々大変です。
困った事があったら、いつでも来るんだぞ
世話になった女性の娘に、有り金を全部渡してしまう寅さんの姿も感動的ですが、困った事があったらいつでも力になるからな!という寅さんの気持ちが最高ですね。人の恩を忘れず、人助けの為の労力を惜しまない寅さんの姿は、人間のあるべき姿のお手本のような気がします。
困ったときは、お互いですからね
無一文で困っていた寅さんを助けてくれたお雪さんの言葉は、良く聞き慣れた言葉で珍しいものではありませんが、現代社会では、こんな感覚が失われているような気がします。自分さえ良ければいい、他人の事なんかにかまっていられないと考える人が増えてしまっている現代では、困っている人を助けるのは当たり前という考えが感動的に感じられます。誰でも困っている時に助けてもらえるのはありがたいものです。損得勘定抜きに、困っている人には優しくしたいですね。
己の愚かさに気付いた人間は、愚かとは言いません。もう利口な人だ
『己を知ってこそ、他人を知り世界を知る事ができる』『学問をはじめるのに、早い遅いはない』などなど、寅さんが知り合った和尚さんの言葉には、学んで行くことの重要性を教えられます。受験や進学の為にイヤイヤ勉強するのは、本人の為にならないことも多いかもしれませんが、自分が興味を持った事、研究したい事に関して学ぶのは、歳をとってからでも遅くはありませんし、好きな事を学ぶ事によって、本当に己を知ることができるのかもしれません。また、己の愚かさを知る事によって自省し、人間的にも成長できるような気がします。
この人の為なら、命なんかいらない
博学な田所教授ですが、恋愛に関しては寅さんの方が上のようです。恋愛感情について語る寅さんの言葉には説得力があり、田所教授も感心してしまいます。『この人を幸せにしたい』『この人の為なら死んでもいい』という気持ちが、本物の恋愛感情なのかもしれませんね。