1969年日本映画。監督は『学校』『息子』『幸福の黄色いハンカチ』の山田洋次。出演は、渥美清、倍賞千恵子、京マチ子、壇ふみなど。日本を代表する長寿シリーズ『男はつらいよ』の18作目。
『男はつらいよ』シリーズの脚本は、日常の生活にありそうなエピソードだけを描くというコンセプトがあるそうですが、この作品は、マドンナが死んでしまうというドラマティックな展開になっています。しかし、寅さんの年齢を考えれば、幼なじみが病死してしまうというストーリーにも現実味があり、特に違和感を感じる事はありません。むしろ、親しい人の死に直面するというテーマは、自然な気がします。政略結婚の犠牲になっただけでなく、病気を理由に離婚されたマドンナの綾の人生は、その美しさゆえに時代に翻弄された犠牲者のような悲哀があり、マドンナの病死という悲しいストーリーなので、寅さんの恋愛にも、今までに無い悲壮感があり涙無しには観ることのできない作品で、悲恋に涙するという点では、シリーズ中最も泣ける作品かもしれません。さらに、綾の娘を演じている壇ふみの好演によって、母娘の愛情もじっくりと描かれ、サイドストーリーとして描かれている寅さんと旅芸人一座とのふれあいなども深い味わいがあります。そして、親しい人の死によって人生の儚さを実感する寅さんの心情、綾さんに伝えられなかった寅さんの想いには号泣させられます。『男はつらいよ』シリーズは、全48作もあるので、レンタルショップなどでは、どれを借りようか悩むと思います。48作品すべてを観るつもりなら、1作目から順番に観ていくのが一番いいと思いますが、全部見るのはちょっとツライなと思っている方なら、好きな女優がマドンナ役で出演している作品をピックアップするかもしれません。私も最初は、好きな女優が出演している作品から観て行きましたが、この作品が最後でした。寅さんの幼なじみという設定の為、京マチ子さんは高齢に感じて女性としての魅力を感じなかった事と、壇ふみさんも好みではなかったので敬遠していました。でも、これは失敗でした。こんな素晴らしい作品を後回しにしてしまった事に後悔しました。私と同じ理由で敬遠している方には、是非観ていただきたい名作です。
私がまだ小学生だった頃、近所に住む遠縁のお姉さんが亡くなりました。私の親戚とは思えない美人で、その上に性格が良くて近所でも評判の娘さんでしたが、まだ中学生という若さで病気で急死してしまい衝撃を受けたことを覚えています。まだ子供だったので、惚れたとかはれたとかいう感情はありませんでしたが、年下の子供に対しての面倒見が良く、そのお姉さんが中学校に入学して、あまり会えなくなった時に寂しい思いをしたのを覚えています。美人で性格が良く、優しい人だったので、滅多に他人を褒めないウチの両親も、結婚相手には困らないだろう、いいお嫁さんになるだろうと噂していましたが、美人薄命の言葉通り若くして亡くなってしまいました。この作品を観ると、そのお姉さんを思い出してしまいますが、本当に天使のようないい人だったので、絶対に天国に行っていると思います。
またいつか、日本のどこかできっと会おうな
お金も無いのに旅芸人の一座に大盤振る舞いをしてしまった寅さんは、警察のお世話になることになってしまいますが、大好きな人たちに喜んでもらえるなら、犠牲を払ってもかまわないという寅さんの気前の良さが感じられます。旅芸人の一座と別れる時に、『きっと会おうな』という寅さんの言葉には強い気持ちが込められていて、人間同士の強い絆が感じられます。
深く考えないほうがいいですよ
『人はなぜ死ぬんでしょうね』と綾に聞かれた寅さんは、ユーモアを交えて答えますが、寅さんの言う通り、深く考えないほうがいい事もありますよね。考えるのが面倒だから考えないというのは怠惰なだけですが、考えても仕方の無いこと、考えても答えがでない事も多いような気がします。
人の一生なんて儚いもんだな
形あるものは全て朽ち果て、死は必ず訪れます。親しい人の死に直面するのは、人生の試練の中でも最も辛い事だと思いますが、人間の命の儚さを知れば、人生の短さを痛感し、人生をムダにしないように精一杯生きようとすることができるかもしれません。
墓参りに行ったときにでも話をするさ
綾さんの病気が治ったら、足を洗って堅気の人間になろうと考えていた寅さんですが、その気持ちを綾さんに伝える事が出来ませんでした。想いを伝えられないまま愛する人がいなくなってしまうというのは、悲しくて仕方が無いと思いますが、そういう気持ちは、死んだ人にもきっと伝わると思います。