1971年日本映画。監督は『学校』『息子』『幸福の黄色いハンカチ』の山田洋次。出演は、渥美清、倍賞千恵子、榊原るみ、田中邦衛など。日本を代表する長寿シリーズ『男はつらいよ』の7作目。
『男はつらいよ』では、シリーズの1作目から最後に寅さんが振られるというパターンが定着していましたが、本作では、寅さんが、マドンナから結婚を申し込まれるという意外な展開です。寅さんの生みの母親のお菊が登場して、爆笑シーンもたっぷりと楽しめますし、東北地方の若者が東京へ集団就職するのが当たり前だった当時の時代背景も涙を誘います。シリーズ中で唯一、マドンナが知的障がい者であるという点でも異色ですが、寅さんの母親が登場するのは、この作品と2作目の『続・男はつらいよ』だけで、そういう意味でも貴重な作品です。寅さんと母親の口ゲンカのシーでは、母親が寅さんに向って『脳が足りない』を連発して笑わせてくれますし、さくらさんと母親が話している最中に、子供のように転げ回る寅さんの姿など爆笑シーンが満載です。そして、映画の冒頭での青森県から出稼ぎに向う少年少女の姿や、東京に出てきて騙されて酷い目に遭うエピソードには、東北の貧しい家庭に生まれた人間の悲哀が漂い、エンディングで映し出される、時代に取り残されたような寒村の風景にも切なくさせられます。まだ30代の寅さんは、かなり荒っぽく、ヤクザ丸出しの態度でヒヤヒヤするシーンもありますが、それさえガマンすれば、寅さんと母親の微妙な関係、兄を心配するさくらの愛情、そして、当時の東北からの出稼ぎ労働者の悲哀など、笑いと感動を味わえる名作で、以外にスッキリとした明るい気持ちになれるエンディングにも好感が持てます。
昔、付き合いで知り合いのバンドのライブに行った時に、知人の一人が、知的障害者の息子さんと一緒にライブに来ていました。その息子さんを膝に乗せてライブ演奏を楽しんでいましたが、息子に対する愛情が、こっちにも伝わってくるほどで感動したのを覚えています。知的障害者を持つ親は、子供の将来などについての不安などもあり大変かもしれませんが、ある意味では、健常者の子供よりも可愛いかもしれません。発達が遅い分、親の負担は大変だと思いますが、頭が良くても性格の悪い人間はいますし、悪意を持たずにいつまでも純真な心のままの子供は、親にとっては可愛くて仕方が無いような気がするんですよね。結婚するにしても、悪知恵ばかり働く悪妻をもらうより、生活の負担が増えても心の奇麗な人と一緒になった方が幸せのような気がします。
親を恨むんじゃねえよ・・・
親だって何も好き好んで貧乏してるんじゃねえ・・・。東北の貧しい地域に生まれてしまった為に、出稼ぎで両親を養わなければならない若者は、苦労が多いと思いますが、子供に負担をかける事を苦にしているという意味では、親のほうがツライ筈です。親のスネをかじって何不自由なく生活する人に比べれば、ツライ人生のようにも感じますが、苦労をしただけ人間として成長できるんじゃないでしょうか。
親を安心させようという気持ちがうれしくて
寅さんは、堅気の生活ができずに結婚もしていない為、親や友人に心配ばかりかけてしまいますが、親を安心させたいという優しい心を持っています。自分勝手に生きて、自分を心配してくれる人の事を考えないような堅気よりは、いい人間だと思います。
貧しいのは農村だけじゃありませんよ
貧しい農村出身の花子に同情して、力になろうとする寅さんですが、貧しいのは農村だけではありません。マジメに働いている人間のほどんとは、搾取されて貧乏しています。庶民の生活が貧しいのは、そんな世の中を作っている政治が悪いのかもしれません。
人間として生きていく自信を与えてやりたい
花子の恩師である福士先生は、花子を特別扱いで甘やかすより、自信を持って生きていけるように教育したいと考えています。ハンディキャップのある子供を甘やかして育てたいと願うのは仕方が無いような気もしますが、本当に本人の将来を考えれば、甘やかさないほうがいいのかもしれませんね。多分、福士先生という名前も、福祉を文字ったもので、障害者の教育について山田洋次監督なりの提言なのかもしれません。