1971年日本映画。監督は『学校』『息子』『幸福の黄色いハンカチ』の山田洋次。出演は、渥美清、倍賞千恵子、池内淳子、志村喬など。日本を代表する長寿シリーズ『男はつらいよ』の8作目。
『男はつらいよ』シリーズ初期の作品の中で、1作目と並んで評価が高い作品です。子持ちの未亡人に恋してしまう寅さんの恋愛と爆笑もののコメディが楽しめるのはもちろんですが、映画化シリーズの1作目にも出演していた博の父親が登場し、亡くなった母親に対する博の愛情、父親との微妙な関係も描かれ、人間の生き方について博の父親に教えられ、堅気になる事を決意した寅さんの心情、さらに、この後もシリーズに度々登場する事になる旅芸人とのふれあいなど見所満載、泣けるシーン満載の名作です。娯楽作品として恋愛やユーモアを楽しめるだけでなく、深く心に残る名言によって人生観が変わってしまうほどのメッセージが込められた作品で、『男はつらいよ』シリーズの中でも、これほど充実した内容の作品は無いかもしれません。この作品は、寅さんの弟分の源ちゃんを演じている佐藤蛾次郎が出演していない唯一の作品ですが、寅さんと源ちゃんのじゃれあうシーンの代わりに、寅さんが小学生の子供たちと遊ぶシーンがコミカルに描かれているので物足りなさは感じません。また、博さんの母親の葬式、その後の兄弟ゲンカなどシリアスで重苦しい場面が多いものの、志村喬さん、池内淳子さんの名演によって、寅さんの恋愛以上に印象に残るエピソードが多くなっています。『男はつらいよ』シリーズの初期の傑作であり、シリーズ全作品の中でもトップ5に入る名作だと思います。
はじめてこの作品を観た時は、まだ子供だったので寅さんの恋愛感情や、博の母親の葬式などはほとんど印象に残りませんでしたが、家族が一緒に食事をするという平凡な生活の中にこそ幸せがあるという言葉は、深く心に刻まれ忘れられませんでした。大人になってから観ると、 子供の頃には分らなかった博の母親を思う気持ちや、貴子さんの子供への愛情など、泣けるシーンが多くなり、『人間は運命に逆らって生きてはいけない』という言葉にも重みを感じます。貴子さんを演じている池内淳子さんの魅力も、子供の頃は理想のお母さんというイメージでしたが、今では魅力的な女性として憧れの感情がわいてきます。それにしても、りんどうの花が、これほど悲しく見える作品は、他にはないでしょうね。
舞台に立ったら、みんな忘れてしまいます
旅芸人の一座と知り合いになった寅さんは、一座の花形である大空小百合に、『辛い事は無いか?』と尋ねますが、小百合は、こう答えます。何か好きな事をしている時は、何もかも忘れる事ができますよね。全てを忘れるほと集中できる趣味があれば、辛い事が多くてもがんばって生きていけるような気がします。
人間は、絶対に一人じゃ生きていけない
言うまでもありませんが、人間は、家族や友人などに支えられながら生きています。全くの他人と思っている人間でさえ、自分の食料や日常生活品を作っている会社などに勤めていて、間接的にお世話になっているのかもしれません。人間は必ず誰かに助けられ、支えられながら生きていると考えれば、家族や友人はもちろん、他人にさえ感謝する気持ちを持って生きていけるかもしれません。
金で済むことならか・・・
残念な事に、世の中にはお金がからんだトラブルが多く、お金さえあれば解決できる問題も少なくありません。寅さんのように、他人の為に力になりたいという善意を持っていても、貧乏人にとっては、こればかりはどうにもなりません。お金に困っている人を助けたいと思っても、自分もお金が無い・・・。こんな無力感を味わう事が多いのも、人生の悲しさです。
好きで飛び込んだ稼業だから、愚痴も言えませんが・・・
どんな仕事をしていても、それぞれの苦労があります。誰かに強制されてしている仕事なら不平不満があっても仕方がありませんんが、自分で選んだ道なら、他人のせいにするわけにもいきませんね。
こんな暮らしがうらやましいか?
渡世人で旅暮らしの寅さんは、博の父親に教えられて、家族が支えあって暮らす堅気の生活に憧れていますが、寅さんが恋する貴子は、人生に疲れて旅暮らしに憧れています。貴子が旅暮らしに憧れている事を知りショックを受けた寅さんは、妹さくらに、旅暮らしがうらやましいか?と尋ねますが、さくらは、違う意味でうらやましいと答えます。兄の寅さんの心配ばかりして暮らしているさくらさんは、立場を逆にして、心配させてやりたいと答えます。さくらさんなりの愛情表現なんでしょうね。