1972年日本映画。監督は『学校』『息子』『幸福の黄色いハンカチ』の山田洋次。出演は、渥美清、倍賞千恵子、吉永小百合など。日本を代表する長寿シリーズ『男はつらいよ』の9作目。
この作品が製作された当時、日本男性の理想の女性と言われ、人気のあった吉永小百合さんがマドンナとして登場。清楚な美しさで作品のイメージを決定付ける存在感があり、日本全国のサユリストを満足させる作品になりました。美しさだけでなく人間性も魅力的なキャラクターだった為、シリーズ13作目『男はつらいよ・寅次郎恋やつれ』にも同じキャラクターで再登場しています。また、吉永小百合さんが演じる歌子の父親役で出演している宮口精二さんも、芥川龍之介が老人になったらこんな感じなのかな?と思わせる作家らしい雰囲気があり、気難しい作家を好演しています。何と言ってもマドンナ役の吉永小百合さんの存在感が目立つ作品ですが、厳格な父親との意見の違いに悩み、優柔不断な自分の生き方に決別する主人公の生き方、マジメに働いてお金を稼ぐ事の尊さや、幸福論まで描かれた充実した内容で、寅さんのアドバイスには、子供を思う親の気持ちが反映されています。そして、シリーズ中最も有名な爆笑シーンである、写真撮影の際に寅さんが『バター』と言ってしまうシーンは、何度観ても爆笑できる楽しさがありコメディ作品としても最高です。吉永小百合さんのファンにとっては、アイドル的な魅力も楽しめますし、コメディ作品としてもAクラスの作品ですが、寅さんの恋愛に関しては、インパクトが弱く、号泣するほど感動的な場面が無いのが、ちょっと残念です。
私は、年齢的にもサユリストという世代では無いので、吉永小百合さんの全盛期の人気がどれほど凄かったのかは分りませんが、この作品を観ると、当時の熱狂的な人気も分るような気がします。色白で上品な美しさ、柔らかく落ち着いた物腰など、日本人男性が、女性に求める美しさや気品を全て持っているような魅力があり、理想の女性として崇められるもの当然だと思います。男性にとっては、吉永小百合さんを観るだけでも価値あり!でしょうね。爆笑ネタも秀逸で、記念撮影時にバターと叫ぶ有名なシーンや、川原で花の冠をかぶるマドンナの後ろで、源ちゃんからヘビを渡されて寅さんが激怒するシーンなどシリーズ中で最も笑える名シーンも含まれています。シリーズ中でこの作品が一番好き!というファンも多いでしょう。
言っていい事と悪いことがあるのよ
博とさくらさん夫婦が家を建てることになりますが、機嫌が悪い寅さんが暴言を吐いて二人を傷つけてしまいます。『男はつらいよ』ではお馴染みのパターンで、今回に限った事ではありませんが、寅さんのように怒りにまかせて暴言を吐いてしまうと、人を傷つけてしまい、場合によっては一生忘れられない心の傷になってしまう事もあり、言った本人も後で後悔することになります。親しき仲にも礼儀あり!という言葉もありますし、こんな風にならないように気をつけたいですね。
マジメに働いたお金で・・・
悪い事をして稼いだお金で豪邸に住んでいる人もいるけど、私たちは、マジメに働いたお金で家を手に入れるんだと言う、さくらさんの言葉には重みがあります。汚い事をして手に入れたものよりも、マジメに働いて手に入れたものの方が、はるかに価値があると思います。
一生懸命働いて、父ちゃん母ちゃん安心させるんだぜ
旅先で知り合った3人の娘さんに寅さんがアドバイス。子供たちが社会人になってマジメに働くようになれば、親としては一安心です。そんな、親の気持ちを代弁する寅さんが、たのもしい存在に感じられます。
世の中には悪い男がいるから、騙されねぇように気をつけてな
これも、娘さんを持つ親としては心配な事ですね。残念ながら、世の中にはいい人ばかりではありません。他人を平気で騙したり傷つけたりする人もいますから、気をつけないといけません。
誰かが傷ついたり、寂しい思いをしたりしても、仕方が無い事もある
人生は選択の連続です。どんな仕事をするか、どこで暮らすか、誰と暮らすかなど、自分の生き方を選択しなければなりません。その選択によっては、誰かを失望させたり、傷つけたりしてしまう事もあると思います。自分の事ばかり考えてわがままに生きる事によって人を傷つけるのは感心しませんが、どちらかを選ばなければならない時は、誰かが犠牲になるのは仕方がないのかもしれません。