1987年アメリカ作品。監督は、『2001年宇宙の旅』『アイズ・ワイド・シャット』のスタンリー・キューブリック、出演は、『トランスポーター2』のマシュー・モディーン、『メン・イン・ブラック』のヴィンセント・ドノフリオなど。厳しい軍事訓練、悲惨な戦争体験によって豹変してしまう人間の姿を描いた異色の戦争映画。
前半は海兵隊訓練キャンプでの新米兵士の厳しい訓練の様子、後半はベトナム前線での戦闘の様子を描く2部構成になっていて、スタンリー・キューブリック監督らしい個性的でショッキングな映像を楽しめる作品になっています。1980年代にブームになったベトナム戦争をテーマにした作品の中では、特に異色の作品で、前線の戦闘での悲惨な現状をリアルに描くというよりは、軍事訓練や実戦経験によって人間性が崩壊していく様子、人間の悪意が目覚める過程ををショッキングな映像で描いています。軍事訓練で上官に罵倒されるシーンでは、観ているだけでイラついてくるほどの汚い言葉、高圧的な態度に気分が悪くなりますし、おだやかな表情だった青年が悪魔のような表情に豹変してしまうシーンには背筋が寒くなります。エンディングで使用されているローリング・ストーンズの『黒く塗れ』も、悪意に染まってしまう人間を象徴しているような気がします。戦争映画としての完成度は高いものの、気分が悪くなる、不機嫌になるという要素が強い作品なので、賛否が分かれる作品だと思います。反戦映画としての情緒的な要素を期待する方にとっては、後味の悪い作品かもしれません。
衝撃的な戦争映画という意味では期待を裏切らない作品ですが、個人的には、あまり好きになれませんでした。スタンリー・キューブリック監督のほとんどの作品では、人間の本質は悪だ!というコンセプトが強く、『2001年宇宙の旅』では、人間が最初に使う道具が武器だったり、『アイズ・ワイド・シャット』では、異常な性欲に支配される人間を描いたりと、人間の善意に否定的なコンセプトが多いために、観ていて気が滅入る事が多いのが難点です。悪意に満ちた人間なら、実生活で嫌でも目にすることができるので、せめて映画の中では、人間の善意を感じられる作品で癒されたいというのが本音です。
恐れに無知な若者たち
戦時下に軍事訓練を受ける若者は、前線での戦闘によって危険にさらされる事を覚悟で志願しているはずです。よほど愛国心が強いか、恐れに無知でなければ志願兵として入隊する人はいないでしょう。もっとも失業中で兵隊になる意外に生きて行く術が無い若者も多いとは思いますが・・・。