ハードロックから産業ロックへ・・・
1976年、ミック・ジョーンズと元キング・クリムゾンのイアン・マクドナルドがオーディションを行い、アメリカ人ミュージシャン3人をスカウトして結成され、1977年にアメリカでデビュー。イギリス人とアメリカ人によって編成されたメンバーだった為に、フォリナー(外国人)というバンド名で活動を開始。デビュー当時のサウンドは、イギリス、アメリカのサウンドを見事に融合させたハードロック色の強いポップなサウンドで、ソングライターのミック・ジョーンズのポップセンスを生かした曲が大ヒット、デビューアルバム『栄光の旅立ち』は、全米チャート4位まで上昇する大ヒットになりました。その後も、『ダブル・ヴィジョン』『ヘッド・ゲームス』の2枚のアルバムが全米チャートトップ10にランクイン、順調に活動を続けますが、4枚目のアルバム『4』の製作中にイアン・マクドナルド、アル・グリーンウッドが脱退、4人編成となって発売されたアルバム『4』は、フォリナーの最高傑作とも言われ、全米アルバムチャート1位を記録、トップレベルのバンドとしての地位を獲得します。しかし、ソングライターとしてバンドのリーダー的な存在だったミック・ジョーンズの意向で、デビュー当時のギターを主体としたハードロック的なサウンドから、キーボードを多用したバラード中心のサウンドに変わってしまい、ヴォーカリストのルー・グラムが対立するようになります。バンドの商業的な成功は、『ガール・ライク・ユー』『アイ・ウォナ・ノー・ラブ・イズ』など、バラード系のシングルの大ヒットによるところが大きく、商業的な成功を考えれば、バラードでヒットを狙う方が賢いとは思いますが、デビュー当時からのフォリナーのファンや、ヴォーカルのルー・グラムは、そんな商業路線のサウンドに失望するようになります。結局ヴォーカルのルー・グラムは、脱退、復帰を繰り返し、現在は新ヴォーカリストを加え、ドラムスには、レッド・ツェッペリンのドラマー、ジョン・ボーナムの息子ジェイソン・ボーナムも参加して活動していますが、産業ロックの代表的なバンドという不名誉なイメージが定着してしまいました。
フォリナーのサウンドの魅力は、何と言ってもミック・ジョーンズの重厚なギターサウンドと、ルー・グラムの情熱的なヴォーカルですが、デビュー当時のサウンドは、ミック・ジョーンズのポップセンス豊かな楽曲に、マルチプレイヤー、アレンジャーとしてのイアン・マクドナルドの才能が生かされた独特のセンス、ドラマーのデニス・エリオットの個性的なプレイにも存在感があり、ハードロックファンにも人気がありました。キング・クリムゾン、マクドナルド・アンド・ジャイルズなどで活躍していたイアン・マクドナルドにとっては、ハードロック系のバンドに参加する事自体が、かなりの妥協だったと思いますが、オリジナルメンバーでありバンドの中心的な存在だったイアン・マクドナルドがクビになってしまってからは、ポップなメロディを量産する個性の無いバンドになってしまい、ちょっと残念です。
リストラ?
イアン・マクドナルド、アル・グリーンウッドの二人の脱退に関しては、自発的な脱退と発表されているようですが、当時、洋楽専門誌に掲載されていたエピソードでは、イアンとアルの二人が、コンサートの為に会場に来ると、他の4人のメンバーも観客の姿も無く、そこにやって来たのは二人だけ、その時はじめて、自分たちがクビになったことに気づいた・・・、というもので、自発的な脱退ではなくクビになったのが真相のようです。このエピソードは、ちょっと大げさかもしれませんが、いずれにしてもミック・ジョーンズが主導で二人をクビにしたのは間違いないでしょう。イアンとアルをクビにすることによって、メンバー一人あたりのギャラも上がり、デビュー当時からの主要メンバーだったイアンがいなくなった事で、ミック・ジョーンズが完全に主導権を握りました。ミック・ジョーンズは、デビューアルバムから、ほとんどの曲を作曲し、バンドの音楽的なリーダーだったので、イアンとアルが抜けても、バンドに大きなダメージはありませんでしたが、ギター、キーボード、サックスなどを演奏できるマルチプレイヤーとして独特のセンスを持つイアン・マクドナルドの脱退は、ブリティッシュロックのファンを失望させました。若い頃からオジサン顔のミック・ジョーンズ、ホラー映画の主演ができそうなグシャグシャ顔のルー・グラムに比べてルックスの良かったイアン・マクドナルドをクビにした事で、バンドのヴィジュアル的な魅力は下がり、ルックスの良いイアンに対する嫉妬からクビにしたのでは?という邪推も生まれました。そして何より、その後の商業的な成功を意識した音楽性などを考えると、金の為に音楽をやっているというイメージが強くなり、んーーミック・ジョーンズって人間的にどうなの?サイテーかも?と考えているロックファンも多くなってしまいました。ロックバンドのサウンドを楽しむならデビューアルバムから4枚目のアルバムまででいいかもしれません。
人間的には友達になりたくないタイプのミック・ジョーンズですが、ヒットメーカー、ソングライターとしての才能は誰しもが認める存在で、ヴァン・ヘイレンのアルバム『5150』のプロデューサーにも起用されました。サミー・ヘイガーが加入した新生ヴァン・ヘイレンのアルバムとして注目され大ヒット、シングルヒットも生まれて、ミック・ジョーンズのプロデューサーとしての才能も評価されましたが、バラード中心になったフォリナーのサウンドと同じようなソフトな音質で、デビュー当時からのヴァン・ヘイレンのファンには嫌われています。ヒットメーカーとしての才能が素晴らしいのは間違いありませんが、極端に好みの分かれるアーティストかもしれません。