ロックの原点へ
80年代に入るとロックの反逆精神、反体制的な傾向は失われ、ニューロマンティックスなどポップス中心の商業的な路線が主流になってしまいました。ロックミュージシャンの象徴であるロングヘアーも耳の後ろになでつけるお上品で、中途半端な長髪、ヘヴィ・メタル系でさえ化粧をしてメディアを強く意識し、サイテーなファンションで中身の無い、カッコばかりのバンドが多く。私も含め多くのロックファンがロックに失望していた時代でしたが、ガンズン・ローゼズの登場でロックが生き返りました。レコード会社やメディアに、すっかり飼いならされていたミュージシャンが多かった時代に、手の付けようの無い本物のロクデナシのバンドが出現したのです。まさしくセックス・ドラッグ&ロックンロールの代名詞のようなバンドでした。
音楽的には、ローリング・ストーンズ、エアロスミス、レッド・ツェッペリン、セックス・ピストルズなど、幅広いジャンルの影響を受けているバンドなので、ブルースをベースにしたハードロックバンドですが、パンクの要素も強く、さらにアクセル・ローズの強烈な個性が、バンドの音楽に強く反映され、ブルースに強い影響を受けたスラッシュのメロディアスなギタープレイ、イジーの作曲能力などがうまくかみ合って、ローリング・ストーンズや、レッド・ツェッペリンなどがそうであるように、他のバンドにはマネできない、独自のサウンドを確立させています。人気だけではなく、実力が認められていたために、プロミュージシャンからも評価が高く、ローリング・ストーンズの前座を務め、エアロスミスのメンバーとも親交を深めていました。またアクセル・ローズは、マイケル・モンロー、ドン・ヘンリーなどのアルバムにも参加、スラッシュはレニー・クラビッツ、マイケル・ジャクソンのアルバムなどにもゲスト参加しています。
1987年にゲフィンレコードから、デビューアルバム「アペタイト・フォー・デストラクション」を発表、発売直後は全米ビルボードチャートで182位だったが、「スウィート・チャイルド・オブ・マイン」の大ヒットにより、じわじわとチャートを上昇、約1年後に1位を獲得しています。つづくセカンドアルバムの発売の前のつなぎとして、インディーズ時代のライブ4曲とアコースティックナンバー4曲をカップリングしたアルバム「GN’Rライズ」が1988年に発売され、ビルボードチャートの2位まで上昇。このアルバムからは「ペイシェンス」がシングルカットされ、全米4位を記録。全世界で熱狂的な人気になりますが、ドラマーのスティーブン・アドラーがドラッグ依存から立ち直れず、クビになってしまいます。その後、メタリカのドラマー、ラーズ・ウルリッヒのすすめで、後任のドラマー、マット・ソーラムが加入、さらにキーボーディストとしてディジー・リードが加入、ユーズ・ユア・イリュージョンのレコーディングが進められました。
1991年、全世界のファンが待ちに待ったセカンドアルバム、ユーズ・ユア・イリュージョンが発売されますが、2枚組みではなく、ユーズ・ユア・イリュージョン1、ユーズ・ユア・イリュージョン2の2枚を同時発売するという前例のない、変則的な発売でした。しかも、2枚とも75分以上の収録という曲の多さで、通常のアルバムの4倍近くの曲が一度の発表されたことになります。「ドント・クライ」「ノーヴェンバー・レイン」などの名曲をはじめとする、素晴らしい楽曲が多く、ロック・ファンのみならず、プロのミュージシャンにも大きな衝撃を与えました。「俺達には、いい曲がいっぱいあるから、出し惜しみする必要はない」というスラッシュの発言により、このアルバムが発売されて以降、多くのミュージシャンが1枚のアルバムに70分以上収録するようななりました。
アルバムの発売に合わせて世界ツアーも行われ、大成功を収めていましたが、ツアー途中でイジー・ストラドリンが脱退。ギルビー・クラークを後任のギタリストにむかえてツアーは続行されますが、ツアー終了後に、メンバーの関係は悪化し、スラッシュ、マット・ソーラム、ダフ・マッケイガンと次々にバンドから脱退してしまい、現在ではデビュー当時のオリジナルメンバーは、アクセル・ローズのみとなり、新しいメンバーで活動中です。2007年には、来日公演で元気な姿を見せてくれたアクセル・ローズですが、レコーディングされた新作アルバム「チャイニーズ・デモクラシー」は、発売延期が続き、いまだに発売されていません。オリジナルメンバーで再結成するという噂も何度もでていますが、スラッシュは、現在活動中のヴェルヴェット・リボルバーの活動を優先させているので、あまり期待しない方が良いかと思います。いずれにしても、ニューアルバムを発売して、再びメジャーシーンに帰ってきてもらいたいアーティストです。
「ぶっ殺したいときがある、死にたくなるときがある、ぶっ壊したいときがある、泣き叫びたいときがある・・・」ユーズ・ユア・イリュージョンTに収録されている「
ドント・ダム・ミー」の歌詞の一部ですが、いかにもアクセル・ローズらしい歌詞だと思います。感受性が強すぎる為に、人や物事に過剰に反応してしまい、人に理解されず、孤独感にさいなまれる・・・。アクセル・ローズと同じように感受性が強すぎるあまり、怒りや疎外感を感じている人は凄く多いんじゃないでしょうか。ガンズン・ローゼズの最大の魅力は、こういった多くの人の共感を得るアクセル・ローズの感性だと思います。勿論、初期のガンズン・ローゼズは、スラッシュのギター、イジーやダフのセンスによるところも大きいと思いますが、アクセルの歌詞、その歌詞を爆発的に表現するヴォーカルが最大の魅力だと思います。日本でも絶大な人気のある有名な小説「ライ麦畑でつかまえて」の主人公ホールデンも、アクセル・ローズと同じように強い感性を持ち、孤独感に悩み、多くの人の共感を得られるからこそ、人気があるのかもしれません。自分達の気持ちを代弁してくれるアーティストを、みんな待ち望んでいたんだと思います。「人生にウンザリだよ、こんな風に感じているのは、俺だけじゃないんだよ」ユーズ・ユア・イリュージョンTに収録されている「デッド・ホース」の歌詞に、こんなフレーズがあります。アクセル・ローズ自身も、自分のような感性を持った多くの人の代弁者であるという自覚があるんだと思います。