1974年日本映画。監督は『学校』『息子』『幸福の黄色いハンカチ』の山田洋次。出演は、渥美清、倍賞千恵子、吉永小百合など。日本を代表する長寿シリーズ『男はつらいよ』の13作目。
『男はつらいよ・柴又慕情』で、吉永小百合さんが演じたマドンナの歌子が再び登場し、続編のようなストーリーになっていますが、二番煎じ的な質の低下はありません。むしろ、前回よりもマドンナ役の歌子の人間性や、父親との関係がじっくり描かれていて感動的な作品になっています。吉永小百合さんの美しさと演技力の素晴らしさを楽しめる作品としてサユリストの方にとって最高の作品でもあります。『男はつらいよ』シリーズの全47作中、松坂慶子さん、栗原小巻さん、大原麗子が2回、竹下景子さんが3回出演していますが、いずれも別のキャラクターとしての出演で、マドンナが同一キャラクターで出演するのは、浅丘ルリ子さんの演じるリリーと、本作での歌子さんだけです。それだけ山田洋次監督の思い入れのあるキャラクターのようで、不幸な境遇に耐えて生きているだけでなく、そんな境遇にも関わらず、自分の幸せを追求するよりも、誰かの役に立ちたいと願うような魅力的なキャラクターになっています。そして、頑固で無口な父親との関係などサイドストーリーも感動的に描かれていて、『男はつらいよ・柴又慕情』よりも感動的な作品としてオススメできる名作です。マドンナが魅力的なだけに、寅さんの失恋の痛手も大きく、寅さんの気持ちになって観ると落ち込んでしまいますが、吉永小百合さんのファン以外でも楽しめると思います。
美人や美男子は、人気者になってしまうので、どうしても自己中心的な人間になってしまいがちですが、この作品のマドンナ歌子さんのように、美人で性格が良く、苦労をしているから他人の苦しみができるような人は、結婚相手として最高だと思います。しかも、自分の事よりも、人の役に立ちたいと願う女性なら、人間としても最高でしょう。現実の世界ではなかなか見つからない理想的なタイプなので、ちょっとズルイような気もしますが、この魅力的なキャラクターを見るだけでも価値があると思います。寅さんが振られるシーンでの、『浴衣きれいだね』の一言には、気持ちが同調してしまった力が抜けてしまいますが・・・。
いくら心の中で思ってても、それが相手に伝わらなかったら・・・
家族や友人など親しい人間同士では、口に出さなくても愛情や友情の絆がしっかりしている場合もありますが、お互いに誤解してしまう事もあります。自分の気持ちを誰かに伝えるというのは以外に難しく、言葉で表現しきれない事も多いですが、出来る限り言葉で伝えておいた方がいいのかもしれません。お互いに誤解したまま別れて、一生会えなくなる事もありますからね。
何か人の為に役立つ事があるんじゃないかしら
自分の人生を、自分の為に生きようとするのは悪いことでは無いと思いますが、自分以外の誰かの為に生きるという生き方は、人間にとって最高の生き方かもしれません。エゴ丸出しで自分の事ばかり考えている人間は、欲にまみれて美しくは見えません。この作品のマドンナである歌子さんのような人が増えれば、世の中はもっと良くなるような気がします。
口がヘタだから、誤解される事が多くてな
歌子さんの父親は、寡黙で口下手な為に、自分の気持ちをうまく表現できません。寡黙な人は、気持ちが伝えられないだけでなく、口数が少ないばかりに、いつも不機嫌と誤解されたりすることも多く、損をすることも多いような気がします。口が達者でも嘘ばかりついている人間より、誠実な人が多いんですけど。
幸せかどうか、考えるゆとりもありません
慣れない仕事で忙しくしている歌子さんは、考えるゆとりも無いほど精一杯生きています。人間誰しも、悩んだり、考え込んだりするのは仕方がありませんが、懸命に働いたり、努力していれば、悩んだり、考えたりする時間は無くなってしまいます。クヨクヨ悩んだり、理屈を考えている暇があるなら、その分努力した方がいいのかもしれません。