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男はつらいよ・寅次郎紙風船

シリーズ28作(1981年)

●監督
山田洋次

●キャスト
渥美清
倍賞千恵子
音無美紀子
岸本加世子

■ ストーリー ■


 九州を旅していた寅さんは、愛子という家出娘と知り合い、一緒に旅をすることになるが、仕事中にテキ屋仲間だった常三郎の女房の光枝に偶然再会し、常三郎が病気で療養中だと知らされる。心配した寅さんは見舞いにかけつけるが、常三郎は、もう余命わずかで、『俺が死んだら光枝を女房に』してくれと頼まれ、寅さんは、堅気になって彼女と結婚しようと決意するのだが・・・。

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■ レビュー ■

 

 1981年日本映画。監督は『学校』『息子』『幸福の黄色いハンカチ』の山田洋次。出演は、渥美清、倍賞千恵子、音無美紀子、岸本加世子など。日本を代表する長寿シリーズと『男はつらいよ』の28作目。

 テキ屋仲間の病死、遺された妻の不幸な境遇を知って渡世人の生き方を反省し、堅気になろうとする寅さんの姿を描いた作品で、『男はつらいよ』シリーズ初期の作品のようなシリアスなテーマで描かれています。寅さんのテキ屋仲間が、死ぬ前に、『俺が死んだら、俺の女房と結婚してやってくれ』と言い残したことから、堅気になろうと決心した寅さんの恋心を中心に描かれていますが、テキ屋稼業をする亭主と結婚して苦労した女性の人生や、渡世人の悲しい末路など残酷なほど現実味のある物語で、寅さんと旅をする家出娘の愛子の境遇も、子供に無関心な親のせいで孤独感を感じて生きている子供の存在などを感じさせ、全体的に暗い雰囲気を持っています。また、大型チェーン店が市場を独占するようになってから、中小企業や個人経営の商店が苦境に苦しむようになった現状もストーリーに織り込まれ、大企業、フランチャイズ経営システムによって仕事を失ってしまう人が増えているという当時の社会背景も描かれています。音無美紀子さんが演じるマドンナの光枝は、渡世人と結婚したばかりに貧乏で苦しんでいるにも関わらず、夫に尽くす良き妻で、不幸な境遇によって身を削りながら生きている姿が、物語の悲壮感を高めています。全体的に暗い雰囲気ですが、岸本加世子さんが演じる愛子の明るいキャラクターが、いいアクセントになっています。自意識過剰で、警戒心が強いのかと思ったら、話してみれば人懐っこくって、おしゃべりでうるさいほど元気な女の子というキャラクターが、シリアスなテーマの作品に明るさを与えてくれています。シリアスな恋愛、庶民の仕事の場を奪ってしまうような社会背景、堅気になろうとしても社会から受け入れられない寅さんの身分など重いテーマの作品ですが、音無美紀子さん、岸本加世子さんたちの好演もあって忘れられない名作に仕上がっています。ただ、後半になって、音無美紀子さんが演じるマドンナの光枝の過去が明かされ、光枝がタバコを吸いながら毒づくシーンはいらないような気がします。このシーンによって前半の光枝のイメージが壊れ、マドンナのイメージが悪くなってしまたのが残念です。グレていたからテキ屋の女房になったというのは、リアルな感じもしますが、このシーンでイメージを壊さなければ、もっと感動的に終わったような気がします。

 中年になると、友人の葬式に出席する機会も増えてきますが、私の仲間内では、友人が死んだ場合、遺された家族を支援していこうという約束事が徹底されています。友人は家族と同じという考えで結束が強いため、友人の家族は、自分の家族と同じです。さすがに、遺された妻と結婚して欲しいというような願いは聞いたことがありませんが、亡くなった友人の遺児は、その友達の分身のようなものですから、できる限り力になってあげたいですね。

こんなおもちゃ一つにも、悲しい話がいっぱいあるんだ

 中小企業のアイディアが大企業に盗まれて倒産してしまったというエピソードが紹介されています。現在では、特許申請などでアイディアを守るという手もありますが、商品のデザインなどに関してはアイディアの権利を守れない場合も多く、アイディア盗んで巨大資本によって大量生産する大企業には、販売価格などで太刀打ちは出来ず、結局泣き寝入りということになってしまうんでしょうね。寅さんが売っている商品の一部も、こんな中小企業の倒産品なんですけど・・・。

今まで、どれだけお前達の犠牲の上に俺は生きてきたか

 寅さんのような強烈な個性、ライフスタイルの人間は、家族の忍耐、献身によって生かされているようなものですが、寅さんに限らず、誰でも多かれ少なかれ、人の犠牲の上に生きているのかもしれません。誰にも迷惑をかけたくないと思って努力してはいても、気付かないところで迷惑をかけ、他人の犠牲の上に生きているんだと思います。ですから、せめて我慢してくれる人、犠牲を払ってくれる人に感謝しながら生きて行きたいですね。

何でもかんでも人のせいにしやがって、甘ったれんな

 愛子の兄が、愛子を怒鳴りつけます。怒鳴る、殴るの激しい兄ですが、その乱暴な振る舞いの中に、妹への愛情の強さが感じられます。まだ、子供なので仕方ありませんが、何でも他人のせいにして生きるような人間になったら、本人の為にならないという気持ちから、怒っているんでしょうね。

遺されたほうが、もっとつらいんだよ

 歳をとって、恩師や友達の葬式に出席する機会が増えると、亡くなった人を気の毒に思う気持ちよりも、残された遺族の方に同情する気持ちが強くなります。亡くなった親にソックリな子供たち、疲れ切った遺族の表情を見ると、亡くなった人よりも遺されてしまった人の方がずっと不幸のような気がしてなりません。

 

名シーン

そんな風に言ってくれるの、寅さんだけよ

 光枝が、寅さんに感謝の気持ちを伝えるシーン。もうこの世の中で、自分を心配してくれる人間は、寅さんだけという光枝の孤独感が伝わってきて、泣けてきます。

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ガイド

大型の店が出るたびに、売り上げが落ちて・・・

 クリーニング店をしている寅さんの同級生が、大型店の出店によって経営が苦しくなり、何度も廃業を考えたというエピソードが出てきますが、スーパーや百貨店の大型化、フランチャイズのチェーン店の増加などで、個人経営主が、廃業に追い込まれるケースが増えてきたのが、この時代です。現在では、ますますその傾向が強くなり、商店街はシャッターを下ろしたままのゴーストタウンのような風景が当たり前になり、大型店に客を取られた経営主は廃業、失業してしまうというケースが増えています。こんな現状は日本だけではなく、ほとんどの先進国で見られる現象で、映画『アメリカン・ギャング・スター』の中でも、フランチャイズシステムが個人経営者を破滅に追いやっているという現実を訴えるシーンがあります。独占禁止法などの法律で、一応規制はされているんでしょうけど、結局、失業者、貧困層を増やしているのは、こういう経営システムと、それを許している政治ねんでしょうね。



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