1976年日本映画。監督は『学校』『息子』『幸福の黄色いハンカチ』の山田洋次。出演は、渥美清、倍賞千恵子、栗原小巻、美保純など。日本を代表する長寿シリーズ『男はつらいよ』の36作目。
『新・男はつらいよ』にもマドンナで出演していた栗原小巻さんが、マドンナとして2度目の出演、更に、タコ社長の娘役で出演している美保純が大活躍する作品です。『二十四の瞳』に憧れて式根島に赴任してきた美人教師に惚れてしまった寅さんの恋愛、美保純が演じるあけみの恋愛、そして、教師として充実した人生を送っていた真知子先生が、自分の幸せについて悩む姿は、女性だけでなく男性にとっても興味深いと思います。主人公の真知子先生は、『二十四の瞳』に感動し、自分もこの小説の先生のような教師になりたいと、島での教師生活を続けてきましたが、教え子や島の人に感謝されて充実した生活に満足しながらも、30代半ばで結婚適齢期を過ぎてしまった事に焦りを感じています。一生を他人の為に捧げるような人生は、人間としては最高の生き方だと思いますが、自分の結婚や幸せについて考えたいと願うのは、一般的には当然の事でしょう。真知子先生のように10年以上島の人の為に生きてきた人ならなお更です。そんな人間として当たり前の欲求と、将来の不安をテーマにしているという意味でも興味深い作品ですが、サイドストーリーとして描かれるあけみと島の青年の物語にも、人間の愛、その愛ゆえの悲しみなどが感じられ味わい深い作品になっています。それにしても、『寅さん、愛って何だろう?』というあけみの質問に、シンプルで分りやすく答える寅さんの言葉はさすがです。シリーズの中では、平均的な作品ですが、式根島の風景には、島ならではの情緒があり、愛、結婚というシンプルなテーマについて考えさせられる深みのある作品です。
『男はつらいよ・春の夢』で、さくらさんも同じような事がありましたが、この作品でも、あけみが島の青年にプロポーズされて落ち込みます。あけみがその青年に惚れたかどうかよりも、人妻だと知らずにプロポーズした茂に対して申し訳ない気持ちでつらかったんでしょうね。『あたし人妻なの、ゴメン』の一言が、やたらに悲しく聞こえます。私は間違ってもモテる方では無いので、こういう事は滅多にありませんが、やはり、嫌いじゃないのに断らなければならない時は落ち込みます。ある意味では、フラれるよりツライかもしれませんね。
白人はインディアンをだまして・・・
オープニングの夢のシーンで、こんなセリフが出てきます。今のアメリカ社会を支配している白人は、インディアンをだまし、土地を奪って今のアメリカ社会を築いてきたわけですから、このセリフは耳が痛いでしょうね。
人におべっか使ったり、お世辞言ったり、伯父さん絶対そんな事しない
結婚について、愛について悩んでいるあけみは、寅さんに会いたがっていますが、そんなあけみの気持ちを満男は理解できるようです。日本のように上下関係に厳しい社会では、お世辞がうまくなければ出世も出来ませんが、誰かに媚びへつらって生きていこうという下心が全く無い寅さんは、誰よりも正直で、処世術や建て前ではなく、正直な気持ちで相談に乗ってくれる存在です。なかなか、こんな風には生きていけませんが、できるだけ正直に生きたいですね。
この先どうなるのかしら
仕事中心の生活で忙しく毎日を過ごし、気がついたら適齢期を過ぎていた・・・、これから自分はどうなるんだろう?。日々の生活に忙殺され、気が付くと中年になっていたなんて話は、映画の話だけでなく世の中には、よくある事です。若い頃と違って体力も衰え、前向きに考える気力もなくなってくると、『この先どうなる?』と不安になりますよね。
みんなのその優しい心が、かえって俺の心の傷を深くする
傷心の寅さんは、自分を心配してくれる人たちに、あえて別れを告げます。場合によっては、優しくされるのがツライ時もあるんですよね。世間の冷たい風にふれて傷を癒したいという気持ちも分るような気がします。
身を焦がすような恋の苦しみとか、大声で叫びたいような喜びとか・・・
世の中には熱烈な恋愛の末に結婚したカップルって以外に少ないのかもしれません。最近では、婚活という言葉もあるぐらいで、結婚相手を安定した生活の為のパートナーと考えるような人も増えているようですし、自分の恋愛感情に素直に人生を送れる人が少なくなっているんですかね。真知子先生のように、相手の父娘の幸せを考えて結婚するなら、まだいいですが、自分の安定した生活の為にパートナーを選ぶというのは、ちょっと寂しいような気がします。