1993年日本映画。監督は『学校』『息子』『幸福の黄色いハンカチ』の山田洋次。出演は、渥美清、倍賞千恵子、松坂慶子、吉岡秀隆など。日本を代表する長寿シリーズ『男はつらいよ』の第46作。
寅さんを演じる渥美清さんの負担を減らす為に、寅さんと満男の二人の恋愛を描いたシリーズ後期の作品の中では、最高傑作です。前作『男はつらいよ・寅次郎の青春』で泉と別れることになってしまった満男の新たな恋愛が描かれ、主役の寅さんの恋愛も久しぶりに盛り上がりを見せます。就職氷河期と言われた時期に就職活動をする満男の就職問題が大きくクローズアップされ、マドンナ葉子が、バブル景気の時期に欲を出して借金をし、店を失ってしまうなど、バブルがはじけて不景気になった暗い世相を背景に描かれ、瀬戸内海の小さな島を舞台にしていることによって過疎化の問題も強調されています。のどかな島の風景、人情味のある島の人々の姿などが心を癒してくれますし、寅さんと満男のやりとりは、シリーズの中でも最高で、爆笑シーンの連続です。しかも、寅さんも満男も情熱的な恋愛に身を焦がし、感動的な恋愛に号泣できる作品で、マドンナの葉子が寅さんを温泉に誘うなど意外性のある展開に驚かされるなど、笑い、感動、驚きを十分に楽しめる傑作です。マドンナとして2度目の出演となる松坂慶子さんは、父親のいない寂しい幼少時代を経験し、情が深い女性を情感タップリに演じ、寅さんとの恋愛を盛り上げてくれていますし、あまり有名ではありませんが、満男の恋する亜矢を演じている城山美佳子も、健康的で積極的な田舎の女の子を好演し、前作までの泉との恋愛を一切忘れさせてくれるほど魅力的です。『男はつらいよ』シリーズ全盛期のような爆笑シーンをたっぷり楽しめる上に、満男と寅さんそれぞれの恋愛に泣ける作品で、全シリーズの中でも上位にランクインする名作でしょう。個人的には、DVDもすぐに購入し、シリーズの中で一番観た回数が多い作品です。
瀬戸内海の琴島が舞台になっていますが、いいですねぇ、こういう島の人々の人間性。島の人すべてが親戚のように親しく、よそ者に対しても寛大に優しく接してくれるなんて、本当に最高です。『この島には泥棒いるかい?』という寅さんの質問に、『いません!』と即答できるのどかさにも、呆れてしまうほど癒されます。こんな善良な人々の力になって生きていけるなら、満男でなくても島に残りたくなりますよね。こんな島があるなら、私も移住したいです。ま、私はもう若くないので、役に立てないかもしれませんが・・・。
二人を育ててくれた皆様に、感謝するという気持ち
オープニングで花嫁に言葉をかける寅さんのセリフですが、現代人に一番欠けているのは、人に感謝する気持ちかもしれません。欧米文化の影響なのか、競争社会に毒されているのか分りませんが、利己的で他人の事を考えず、感謝もしないような人間が増えているから、世の中が荒んでしまうのかもしれません。
俺なんかが役に立つんだよ
30回も会社の試験に落ちている満男は、世の中から『お前なんか要らない!』と言われているようなもので、すっかり自信を失っています。自分のやりたい仕事をするのもいいですが、人の役に立てる仕事をするというのも充実感があると思います。
不幸せに育った人間ってのは、妙に情が深いもんなんだよ
隠し子として生まれた葉子は、父親のいない寂しい子供時代を過ごしたせいで、情が深く、琴島で一人暮らしをしている父親を慕っています。苦労をしている人は、他人の心の痛みを理解できるので、人に親切にできるんでしょうね。
どうして早う会わんかたんやろ
んー、こういう事ってありますよね。運命的な出会いというか、理想の人に出会ったのが遅すぎたと嘆く人は結構多いかもしれません。もっと早く出会っていれば人生が変わっていただろうな?そんな気持ちになった事がある人は、共感できるでしょうね。でも、それも試練であり、人生の悲しさなのかもしれませんけど・・・。
ありのままの自分を見せて、それで不合格なら構わない
父親の博が、就職試験に出かける満男にアドバイスします。嘘をついてでもいい会社に就職しろ!とか言われるよりありがたい言葉ですね。こんな親だったら最高ですね。