1970年アメリカ作品。監督は『さらば青春の日』のスチュアート・ハグマン、主演は『勇気ある追跡』のキム・ダービー、『Xメン』『ニューオリンズ・トライアル』などのブルース・デイヴィソン。1960年代、反戦運動や学生運動に揺れるアメリカの若者の青春を描いた感動作で、カンヌ映画祭の審査員賞を受賞したアメリカン・ニューシネマの代表作です。
荒井由美(松任谷由美)さんの名曲『いちご白書をもう一度』という曲は、皆さんご存知の方が多いと思いますが、元になっている映画の「いちご白書」を観たことがある方は以外に少ないのではないでしょうか。1960年代のアメリカ、ジョン・F・ケネディ、ロバート・ケネディ、キング牧師が暗殺され、チェ・ゲバラが学生たちに崇拝されていた時代、学園紛争を背景に、最初は保守派で敵対関係にあった学生や、野次馬的に運動に参加していた学生たちが成長していく姿と挫折を描いたアメリカン・ニュー・シネマの傑作です。
この作品を始めて観たときは『戦争反対』『知的な講義をしろ』『貧困をなくせ』『公園を住民に解放しろ』といった、ごく当たり前の主張が弾圧されていることに、疑問と怒りが沸いてきた事を覚えています。観るたびに必ず泣いてしまう映画の一つで、個人的には、すべての映画の中でもベスト10に入れたい映画です。60年代の名曲の数々を楽しめますし、政治思想などを抜きにしても優れた青春映画です。60年代の学生運動が盛んだった時代を象徴した作品ですが、主人公の学生たちは世の中を良くしたいという一心にで活動していて、人間の善意による行動だったと思います。利己主義に走って自分さえ良ければいいという風潮が蔓延している現代人には是非観ていただきたい作品です。
残念ながら、この作品はDVD化されていません。中古ビデオでのみ入手が可能です。最近ではビデオレンタル店もDVDレンタルに切り替わっていますので、レンタルビデオ店でも『いちご白書』を見かけることはほとんどありません。レンタルで置いてあるお店を探すか、オークションなどで中古を探すしか手がないようです。私もオークションでレンタル落ちの中古ビデオテープで入手しました。カンヌ映画祭審査員賞を受賞した名作にも関わらず、いまだにDVD化されないのが不思議ですが、この作品の社会に与える影響を考えて意図的にDVD化しないような気がします。今の時代であれば、政治家、資本家の腐敗に怒った市民が暴動を起こしたりしたら困るでしょうから、悪徳政治家や資本家の皆さんには、ヒジョーに迷惑な作品なんでしょうね。悪意を感じます。
ボビーを忘れないで50セント
主人公のサイモンが、ロバート・ケネディが暗殺された直後に『ボビーを忘れないで50セント』と叫んで、彼の名前を使って商売をしている人がいた事を思い出し、そのセリフを真似るシーンが出てきます。資本主義への怒りを皮肉ったこの言葉は、この映画を象徴する言葉の一つ。このセリフの後に予備選でのロバート・ケネディの実写映像が挿入されています。(※ボビーはロバートの呼称)
殺されて政治屋に生まれ変わる
この時代はベトナム戦争がありましたが、政治家がどんな大義名分を主張しようが戦争の目的は金です。戦争による特需があり、兵器を製造する会社は戦争で大儲けし、企業と癒着した政治家には賄賂が入ります。戦勝国は敗戦国から富を奪い取り、その富は政治家と資本家に流れていきます。戦争の犠牲者となった兵士が、恨みながら死んで報復の為に生まれ変わり政治屋になるとしたら、こんな恐ろしい事はありません。