１９４０年代、イタリアのシチリアでは、マフィアのドン・マジーノに支配され、彼と関係の強い特権階級だけが土地を所有し、小作農民たちは飢えに苦しんでいた。しかし、ジュリアーノという若者が、金持ちの財産を盗み、盗んだ食料や金を貧しい農民に与えるようになり、ジュリアーノは、庶民の間で絶大な人気で支持されるようになる。そして、彼の思想に共感した多くの若者が彼に従うようになり、本来、彼の敵であるはずのドン･マジーノまでが、彼に惚れ込んでいた。しかし、ジュリアーノの元に多くの若者が集まり、組織が大きくなるにしたがって、権力者に抵抗し、貧しいものを救おうとするジュリアーノの理想とはかけ離れた組織になってしまう・・・。

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　１９８７年アメリカ作品。監督は『ディア･ハンター』『イヤー･オブ･ザ･ドラゴン』などのマイケル･チミノ、出演は『サブウェイ』『愛にふるえて』などのクリストファー・ランバート、『ラウンダーズ』『グッド･シェパード』のジョン･タートゥロなど。１９４０年代のシシリアで庶民に絶大な人気のあった実在の人物サルヴァトーレ・ジュリアーノの人生を描いたバイオレンスアクション。

　名作『ゴッドファーザー』の原作者として有名なマリオ・プーゾが脚本を担当、監督は『ディア･ハンター』などで有名なマイケル･チミノという事で、公開前から話題になった名作です。マフィアの抗争を描いたバイオレンスではなく、貧しい者の為に盗賊になった実在に人物を主人公にしているので、マフィアの残虐性を描いただけの作品ではなく、世の中の腐敗を正そうと立ち上がった革命家の生き様や、政治家、マフィア、教会が癒着して利益を吸い上げる現状が生々しく描かれています。完璧主義者として有名なマイケル･チミノ監督らしい、時代背景を忠実に描いた映像美は見事で、アクションシーンの迫力も最高級の仕上がりになっていますが、時代背景がリアルなだけに、全体的に暗く地味な映像が多く、残念ながら期待されていたほどのヒットにはなりませんでした。しかし、実在の人物を主人公にした物語には、実話ならではの深みがあり、しかも、社会の腐敗に立ち向かった弱者の味方となれば、なおさら興味をそそられます。自分の土地も持てず、奴隷のように働かされていた農民の為に立ち上がったジュリアーノの姿には共感できる方も多いと思いますし、現代社会にも通じる腐敗構造は、かなりのリアリティがあり、他人事とは思えません。チェ･ゲバラのようなカリスマ性を持った英雄の物語を、マイケル･チミノ監督らしい迫力のある完璧な映像で楽しめるのですから文句無し！と言いたい所ですが、主演のクリストファー･ランバートの個性があまりにも強烈で、アニメ的なキャラクターになってしまっている点と、派手なアクションシーンに力を入れすぎていて、ジュリアーノの思想が、ちゃんと描かれていないのが残念です。マイケル･チミノ監督のファンの方には、オススメですが、革命家としてのジュリアーノの人物像に期待している方には、ちょっと期待外れかもしれません。

変わらないといい続けたら、何も変わらん

　いつの時代も富を持つ権力者の力は絶大で、貧しい人々の為に世の中を改革しようとしても、ほとんどの場合は潰されてしまいます。いつの時代も腐敗した政治や権力者によって支配され、そういった状況は変わらないと思っている人も多いと思います。最初からあきらめてしまっては、どうにもなりませんが、ジュリアーノのようなリーダーが現れて、いい世の中に変えようという意思があれば、少しづつでも、自分たちで変えられるかもしれません。

政府、マフィア、教会と取引した

　金持ちから盗んで、貧しい者に分け与えるジュリアーノは、庶民から絶大な人気があり、選挙の結果も左右するほどの影響力を持っていました。ジュリアーノは政府やマフィアだけでなく教会とも取引をしますが、体制側にとって一番怖いのは共産党の躍進です。共産主義の体制になってしまうと困るのは政府やマフィアだけでなく、教会も同じなんですね。そう考えると、宗教を売り物にした企業のように思えて、ありがたみもなくなります。

アラン･ドロン主演の同名タイトル作品

　『シシリアン』というタイトルの映画は、もう一つあります。アラン･ドロン、ジャン･ギャバン、リノ・ヴァンチェラというフランスを代表する名優３人が出演した１９６９年のフランス映画です。こちらも名作ですが、本作は、このフランス映画のリメイク作品ではなく、全く違う作品なので、レンタル、購入する際は、十分に確認した方がいいでしょう。

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