ブリティッシュ・ヘヴィ・メタル期待の新星だったが・・・

　アイアン･メイデン、デフ･レパードなどのバンドと同じ時期にデビュー、ＮＷＯＢＨＭ（ニューウェーブ・オブ・ブリティッシュ･ヘヴィメタル）とか言われていました。後にＬ・Ａ・ガンズのヴォーカリストとして活躍するフィリップ･ルイス、デフ･レパードのギタリストとして有名になるフィル･コリンらが在籍していました。単なるヘヴィメタル・バンドというには、あまりにも強烈な個性と、ハードロック、グラムロック、パンクロックなどの多様な音楽性があり、今聴いても古さは感じられません。

デビュー当時のメンバーは、フィリップ･ルイス（Vo）、フィル･コリン（G）、ジェリー･ラフィー（G）、サイモン･ラフィー（B）デイブ・ゲイナー（Dr）の５人。デビュー当時はヘヴィ･メタル・バンドとしてレコード会社に宣伝されていましたが、他のヘヴィメタル系のバンドとは、音楽的にもファッション的にも、かなり違っていました。バンドのメンバーのルックスが極端に良かったので、今のヴィジュアル系バンドのような独特のファッションセンスがあり、レザージャケット、レザーパンツでステージに登場する典型的なヘヴィメタル・バンドとは、全くセンスが違っていて、ファッションセンスだけに関してはマーク･ボランなど、グラムロック系の影響も感じられます。リーダーのフィリップ･ルイスは、『俺たちのファッションセンスで音楽性を判断しないで欲しい』と、たびたび、発言していました。それほど、ヘヴィメタル・バンドとしては、異色のファッションでした。ヘヴィメタルのファッションセンスは、日本でもたびたび、ギャグのネタになるほど悪趣味なスタイルが多かったので、ファッションセンスだけでも、ただものでは無いな！と感じさせる存在感がありました。

　デビューアルバム『シアー･グリード』は、７曲目の『ドゥー･ユー･ラブ・ミー』だけは、ＫＩＳＳのカヴァーで、それ以外は全てオリジナル曲が収録されています。ＫＩＳＳのメンバーが、この曲を聴き、ガールの為に曲を作って、彼らに送ったというエピソードもありますが、アメリカの一流バンドでも一目置くという、存在感は、新人バンドとしては、別格な位置にいたことを物語っています。結局、これからは、オリジナル曲のみで活動したいというガール側の意向で、ＫＩＳＳの曲をレコーディングしませんでしたが、ロックファンだけでなくプロの一流ミュージシャンからも高い評価を得ていたエピソードだと思います。悲しい事に、プロのミュージシャンに評価されるような実力派のアーティストが、必ずセールス的に成功するわけではなく、ガールもオリジナルアルバムは、２枚だけで解散してしまいます。

　レコード会社とガールとの間に、大きなトラブルがあり、セカンドアルバムの製作は難航し、結局ガールは解散。フィル･コリンはライバル･バンドであるデフ･レパードに加入、一部のファンに裏切り者扱いされますが、ガールの他のメンバーが、才能のある彼の将来を心配し、レコード会社とのトラブルで、将来性の無くなったガールにとどまるより、デフ･レパードに参加したほうがいいと、デフ･レパードへの参加を後押ししてくれたようです。フィリップ･ルイスは、８０年代後半にブームとなったＬＡメタルのバンド、Ｌ・Ａ・ガンズへ加入。もともとヴォーカリストとして別格の才能のあった彼は、ヘヴィメタル・バンドのヴォーカルとしても成功しますが、独自のファッションセンスを捨て、当時流行していた、タトゥー、レザーファッションに転身してしまいました。個人的な意見ですが、デフ･レパードにしても、Ｌ・Ａ・ガンズにしてもガールの音楽性と比べると、ちょっと見劣りしてしまいます。一般的な成功のレベルから考えると、デフ･レパード、Ｌ・Ａ・ガンズのほうが上ですが、音楽性、ファッションセンス、演奏力など、どの点に関しても、埋もれてしまうには惜しい、偉大なバンドだったと思います。