1969年日本映画。監督は『学校』『息子』『幸福の黄色いハンカチ』の山田洋次。出演は、渥美清、倍賞千恵子、浅丘ルリ子など。日本を代表する長寿シリーズ『男はつらいよ』の11作目。
『男はつらいよ』シリーズの歴代のマドンナの中で、山田洋次監督が一番気に入っているマドンナ、歌手のリリーが初登場する作品です。不幸な生い立ちの為に人情に厚く、歌手として旅暮らしを続けるリリーは、寅さんとは似たもの同士。性格が似ているがゆえにケンカになることも多い二人ですが、誰よりもお互いの事を理解できる仲であり、お似合いのカップルです。この作品では、この二人の恋愛はもちろん、日本の労働者の厳しい現状を訴えるセリフや、北海道の酪農農家の厳しい労働環境を描く事によって、恵まれた環境で働いていながら不平不満を感じている労働者に自省の念を与えるようなメッセージもあり、充実した内容になっています。フーテン暮らしで体がなまっている寅さんが、酪農農家での厳しい労働で倒れてしまう姿には、現実味があり、酪農農家の労働の厳しさには身の引き締まる思いがしますし、タコ社長の工場で働く従業員の恋愛は、今の時代では古さを感じますが、かえって新鮮な感動があります。シリーズ中で最も人気のある作品の一つであり、笑いと涙、感動が全て楽しめる代表作としてオススメできる作品です。
正直言って、個人的には、リリーさんのような女性は好みでは無いので、マドンナのキャラクター的な魅力という点では感情移入できないんですが、やはりこの作品は最高です。だらしの無い親を持ってしまったばっかりに、自力で生きていかなければなかったリリーさんは、自立心がありハッキリと自分の意見を言う事のできる女性で、寅さんに似ています。誰にも頼る事のできない境遇では、リリーさんや寅さんのように、攻撃的な性格でなければ生きていけないんだと思いますが、似たもの同士というは、互いの気持ちが理解できる反面、ぶつかりやすいという難点もあります。歴代のマドンナの中で、寅さんの奥さんとして最もふさわしい人と言われていますが、個人的には、もっと女性的でおしとやかな人が合うと思うんですが・・・。
朝から晩まで、汗水たらして働いて・・・
今の日本の現状では、僕達労働者は・・・と、博さんが、日本の労働者の窮状を話しかけます。この当時の日本の労働者は、一日中マジメに働いて何とか暮らしていけるという厳しい状況だったようですが、今よりは、ずっと幸せだと思います。今では、使い捨ての派遣労働者など、差別化が進み、働く事もできない人が増えてしまっているので、この時代に生きていた人は幸せだったような気がします。
財産なんか持ってない人の中にこそ、本当に立派な人間がいるんじゃないかな
虚栄心の強いほど富や名声を求めます。財産がある人、名声のある人は、人に尊敬されると思ってしまいがちですが、自分の事より他人の事を優先して貧乏しているような人間こそ、立派な人間なんじゃないでしょうか。
惚れられたいんじゃないの、惚れたいの
今まで本気で人を好きになった事のないリリーさんは、工場で働くの青年の恋愛をうらやましがります。誰かに惚れられると、それなりに気分は良くなりますが、自分自身が誰かに惚れている時の方が、幸福感が感じられるような気がします。
心だけは豊かに生きてゆきたい
貧乏して物質的に満たされていなくても、人に対する思いやりを忘れず心が豊かなら、幸福感に満ちた生活ができるような気がします。貧乏に負けて心まで貧しくなってしまったら、最悪ですね。