1995年日本映画。監督は『学校』『息子』『幸福の黄色いハンカチ』の山田洋次。出演は、渥美清、倍賞千恵子、浅丘ルリ子、吉岡秀隆、後藤久美子など。日本を代表する長寿シリーズ『男はつらいよ』の第48作。
『男はつらいよ』シリーズの最後作品であり、渥美清さんの遺作となった作品です。山田洋次監督としては、50作目までの構想があり、この作品のストーリーは完結編として描かれているわけではありませんが、寅さんのリリーとの再会、満男と泉の恋愛の進展など、最終回にふさわしい内容になっています。渥美清さんの体力的な衰えは観ていてツラく感じる所もありますが、リリーと寅さんの微妙な恋愛関係の繊細な描写、とらやの茶の間での会話などはシリーズ全盛期を思わせるほど完成度が高く、泉の結婚式を邪魔してしまった満男の人間的な成長、寅さんの幸せを願うさくらさんが、珍しく感情を高ぶらせるシーンなど、シリーズの最後を飾るにふさわしい名作になっています。また、未曾有の大災害となった阪神淡路大震災の被災地で寅さんがボランティアをしていたというエピソードも、寅さんの人柄を考えれば説得力があり、サイドストーリーとしても興味深いですが、被災地の人々にとっては、『男はつらいよ』シリーズの映画の中に、被災地の歴史的な実写映像が取り込まれた事が、復興への大きな勇気になったと思います。渥美清さんが亡くなり、もう『男はつらいよ』の続編を楽しむことはできません。そう考えると感慨深いですが、遺作という事を抜きにしても笑いと涙を楽しめる極上の名作だと思います。
このシリーズ最後の作品を映画館で観る事ができましたが、個人的に、当時は大変な時期でした。東京から東北の町に引越したばかりでしたが、慣れない気候、劣悪な労働環境ですっかり参ってしまい、落ち込んでいました。そんな時、この作品に出会えたことは、私にとって生きる活力になり、大きな救いになりました。『男はつらいよ』が終わってしまった事に関しては、喪失感が大きく、私の友人の一人は、渥美清さんが亡くなってから、一切映画を観なくなってしまったほどで、その気持ちも分ります。本当に寂しいですが、この作品を何度も何度も楽しんで気を紛らわすしかありませんね。
いつまでもいて欲しい・・・
寅さんに世話になった神戸の石倉が、とらやを訪ね、寅さんが被災地で活躍したエピソードを話しますが、この言葉は、『男はつらいよ』シリーズのファンの気持ちを代弁しているかのようです。いつまでも寅さんの姿を観ていたいと願うファンにとっては、感慨深い言葉です。
そこまで甘えたくないのです
親に甘やかされた為に、一人前になれない現代の若者として描かれている満男ですが、この作品では、人間的に一回り成長しています。親や友人に甘えて生きるのは楽ですが、いつまでも他人に頼って生きていけるわけではありません。誰にも頼らずに自分で物事を解決していこうという姿勢がなければ、いつまで経っても半人前なのかもしれません。
どう償えばいいんだろう
泉の結婚式をメチャクチャにしてしまった満男は、自分の我がままな行動が、他人の人生を変えてしまった事に苦悩し、反省します。他人の人生を変えるほどの過ちを犯してしまい、自責の念に苦しむ人なら理解できると思いますが、いったいどうやって償えばいいのか?どうやって謝ればいいのか?と考え込んでしまうと、生きているのもツラくなりますよね。
男には耐えなきゃならないことが、いっぱいあるんだぞ
寅さんが満男に説教をします。男でも女でも、人生には耐えなければならない事が多く、忍耐こそが人間にとって最大の修行なのかもしれません。忍耐力に欠け、すぐにキレてしまう私のようなチンピラは、いつまで経っても人間的に成長できないんでしょうね。
男の気持ちを伝えて欲しいんだよ、女は
『男はつらいよ』シリーズ後期の作品では、度々出てくる女性の気持ちを表現した言葉ですが、リリーさんや泉ちゃんに限らず、女性にとっては、カッコ悪くてもハッキリを気持ちを伝えてもらうのが一番嬉しいようですね。肝心な時にしっかりと意思表示しない男は、女にしてみれば、卑怯、意気地が無い、気が小さいという事になってしまうんでしょうね。