ロックの地球遺産
1973年発売のピンク・フロイドの代表的なアルバム。このアルバムは発売から741週間(約15年間)全米アルバムチャートにランクインし、今までに3500万枚以上のセールスを記録している大ヒットアルバムです。シングルカットした『マネー』も大ヒットしましたが、いわゆるポップソングが満載のアルバムではなく、プログレッシブロックのファンだけでなく支持された珍しい名盤です。
プログレッシブロックの名盤として有名ですが、プログレファンだけに受け入れられたアルバムではありません。3500万枚以上のセールスを記録した事が、それを証明していると思いますが、このアルバムは人間の潜在意識を呼び覚ましてくれるようなアルバムで、このアルバムを聴くと、何の執着も悩みも無い、人間の原初的な姿に戻れるような快感に身をゆだねられます。全ての人間が共有している潜在意識を思い出させてくれるような音楽だからこそ、世界中で大ヒットし3500万枚以上という信じられないようなセールスを記録したんだと思います。音楽的には、人間の深層心理から宇宙空間を思わせるような繊細でスケールの大きい表現力に圧倒されますが、歌詞の内容も、シンプルで分りやすい言葉を使って、人間、生命についての哲学的な内容になっていて、ロックを聴きながら同時に究極の文学を味わえるような深みがあります。また、イエスやELPなどのプログレッシブロックのバンドがクラッシックをロックに融合させ、クラッシック的なギターアプローチで曲を作っていたのに比べて、デイブ・ギルモアのギターは、ブルース色が強く、このブルースフィーリングに満ちたギターのメロディも、何か懐かしさや、安堵感を感じさせてくれるという部分も、このアルバムが広く受け入れられた要素だと思います。私が小学校の頃、世界各国の言語をレコーディングしたアナログレコードをカプセルに入れて、宇宙に飛ばし、宇宙のどこかに居るかもしれない知的生命体へのメッセージとして飛ばすという計画があったようですが、人類の進化のレベルを宇宙人に伝えるなら、このアルバムをそのままカプセルに入れて送った方がいいような気がします。このアルバムは、人間が、音楽で空間や深層心理などをどこまで表現できるか?というテーマの究極の答えだと思います。
このアルバムをはじめて聴いたのは高校一年の時でした。バンド仲間に『凄いアルバムがある!』とすすめられ、その友人の家でバンド仲間3人で一緒に聴いたんですが、本当にショックでした。普通は、レコードを聴きながら『今のギター凄いな!』とか感想を言いながら聴くんですが、このアルバムを聴いたときは、3人ともアルバムが終わるまで無言で聴き入っていました。オープニングの鼓動の音から、ただならぬ気配を感じ、『生命の息吹』で音楽に飲み込まれ、『タイム』の時計の音に驚かされ、『虚空のスキャット』で感情の爆発を体感し、B面の『マネー』の変拍子で心を乱され、『アス・アンド・ゼム』から『狂気日食』までで心の平安と燃えつきて死に至る高揚感にドップリと浸り、アルバムを聴き終えた後は、心地よい疲労感が残りました。本当に凄いアルバムです。このアルバムを聴いて以来ピンク・フロイドのファンになった方も多いと思います。私の友人にもピンク・フロイドの熱狂的なファンは多く、中には、ピンク・フロイドの音楽をリアルな音で聴くためにオーディオシステムに100万円以上かけている友人もいます。芸術的な音楽、哲学的な歌詞だけでなく、広がりのある上質な音でレコーディングされているので、できれば、高音質なオーディオシステムで楽しんだほうがいいと思います。