産業ロック全盛期に吹き抜けたニューヨークの風

　７０年代までのロックスピリットが失われ、商業的な音楽が全盛期を迎えていた８０年代に、そんな時代の音楽を全く無視するかのように、独自の視点で人間を見つめる歌詞を、アコースティックギターの弾き語りで淡々と歌う天才的なアーティストの登場に、ミュージックシーンは心地の良い衝撃を受けました。レコード会社に媚びて、とにかく売れようとするミュージシャン達には、いい薬になったと思います。

　このデビューアルバムは、アコースティックギターを中心にしたアレンジの曲が多く、バンドのアレンジは、鋭利なアコースティックギターのサウンドを引き立てるようなサウンドで、当時流行していたダンスビート系のアレンジは全く無く、全体的に、冷たく研ぎ澄まされた、真冬のニューヨークを想起させるような、質感を持っています。歌詞の内容も、曲のアレンジ同様に、女性的な恋愛を歌ったものより、シニカルなほど客観的に人間を観察した内容が多く、女性アーティストとしては、異色の作品だったと思います。ボブ･ディランのように、遠く空の上から人間を観察するような、スケールの大きさはありませんが、すぐ傍から、客観的に、じっと観察しているような独特の洞察力、アーティストとしての表現力には、８０年代の音楽に失望していた音楽ファンには、嬉しい驚きだったと思います。アルバムジャケットは、２作目以降の作品よりシンプルというか、手抜きだと思いますが、これは、レコード会社がセールス的に、あまり期待していなかったからもしれません。シングルヒットこそ出ませんでしたが、スザンヌ・ヴェガの音楽性の基礎が最も分りやすい名盤だと思います。

　  　

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■　女王と兵士　■

正直な男として生きたい・・・

この曲の歌詞の内容は、戦争に出征していた兵士が、女王に戦いを放棄したいと直訴するという無いようですが、この兵士が、女王に対して、こう言います。『正直な男として生きたいのです。私の愛を若い女性に与えたい』、これには泣けました。英雄になりたいとか、金持ちになりたいとか、利己的なことではなく、『愛を与えたい』、この言葉には、本当に感動しました。この曲をはじめて聴いてから、今まで、ずっと心に残り、死ぬまで忘れられないほど、大きな影響を受けました。

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『クラッキング』『女王と兵士』『マレーネの肖像』『街角の女の子 』など、スザンヌ･ヴェガの代表曲が収録されている名盤ですが、大ヒットしたセカンドアルバム『孤独』に比べるとマイナーな作品なので、中古商品だと、かなり安く購入できます。対訳つきの国内盤で、スザンヌ・ヴェガの歌詞を、じっくりと味わってみては、いかがでしょうか？