2008年アメリカ作品。監督は、『π』『ファウンテン・永遠につづく愛』などのダーレン・アロノフスキー、出演は、『死にゆく者への祈り』『ハーレーダビッドソン&マルボロマン』のミッキー・ローク、『忘れられない人』『団塊ボーイズ』のマリサ・トメイ、『シモーヌ』『アクロス・ザ・ユニバース』のエヴァン・レイチェル・ウッドなど。落ちぶれた初老のレスラーが、自分の生きる意味を悟って、再びリングに上がる姿を描いた人間ドラマ。
ダーレン・アロノフスキー監督が、初老のレスラーの生の苦しみを生々しく描いた傑作です。『π』では、数式によって宇宙の真理を解明しようとする科学者を、『ファウンテン・永遠につづく愛』では、不老不死の研究で、仏教的な宇宙観、死生観を体験する医師を描いたダーレン・アロノフスキー監督としては、悟りの境地から、一気に俗世に還俗してしまったような落差のあるテーマですが、誤解によって、あるいは、自分でもどうしようもないエゴによって、大切な人を全て失ってしまう主人公の苦しみは、仏教で言うところの『生は苦しみ』という考え方を、ドラマにしたような重みが感じられます。近年、表舞台へ復活したミッキー・ロークの渾身の名演、マリサ・トメイ、エヴァン・レイチェル・ウッドという魅力的なキャラクターの存在感、人生の苦しみという根源的なテーマなど、どれを取っても非の打ち所の無い傑作になっています。主人公のランディの全盛期を象徴する為に使われている80年代のヘヴィメタルの名曲の数々も、80年代を知る方にとっては、かなり楽しめる選曲だと思います。特に難点はありませんが、主人公ランディと同年代で、自分を負け組みと感じている人にとっては、精神的にツライ作品かもしれません。
最近、勝ち組、負け組みという言葉を良く聞きますが、自分を負け組みだと思っている方にとっては、この作品は、感情移入しすぎると、かなり落ち込む作品かもしれません。私も負け組みを自覚しているので、この作品の主人公の人生が、自分の今の姿とかぶってしまい、落ち込んでしまいました。自分の身に降りかかる不幸は、すべて自業自得なのかもしれませんが、ある種の人間にとって、この世の現実生活は、苦しいだけで、その苦しみを忘れられる何かを見つけられれば、それだけでも幸せなのかもしれない・・・、そんな事を痛感させられました。
俺はボロボロのクズだ
家族を犠牲にしてレスラーとして生きてきたランディは、家族にも見放されて、試合でのケガで体もボロボロ。自分をボロボロのクズと認めるのはツライと思いますが、自分がクズだという自覚があるだけ人間的にはまともなのかもしれません。
俺にとって痛いのは、外の現実の方だ
理不尽で不公平な世の中で生きることは、ほとんどの人にとって苦しい事だと思います。命を失う危険があってもリングに上がろうとするランディは、そんな世の中の苦しみから逃げるために、リングに向うんでしょうね。考えてみれば、スポーツや、音楽などの趣味に没頭している時だけ、この世の苦しみを忘れられると感じている人も多いのかもしれません。