1976年アメリカ作品。監督は『最後の誘惑』『ディパーテッド』などのマーティン・スコセッシ、出演は『ゴッドファーザーPARTU』『ヒート』などのロバート・デ・ニーロ、『アンナと王様』『羊たちの沈黙』などの
ジョディー・フォスターなど。退廃的なニューヨークの町を舞台に一人のベトナム帰還兵が狂気に走る姿を描いたバイオレンスアクション。
1973年度作品『ミーン・ストリート』からバイオレンス作品でロバート・デ・ニーロを好んで起用してきたマーティン・スコセッシ監督ですが、二人のコンビでの作品では、本作が最高傑作でしょう。バイオレンスアクション作品としてのリアリティも凄い作品ですが、都会に渦巻く狂気、退廃、人々の絶望などが背景に描かれている事によって、アクション作品としてだけでなく終末的な警告も含まれているような深みがあります。また、カンヌ映画祭でパルムドールを受賞するなど有名な作品ですが、独特の退廃的な雰囲気と主役のロバート・デ・ニーロのキャラクターが鮮烈だった為カルト的なファンも多く、1981年には、この作品に影響を受けたジョン・ヒンクリーという男がレーガン大統領暗殺未遂事件を起こすなど、良くも悪くも影響力の強い作品です。さすがに今観ると、街の風景やファッションは古くクラッシック作品という印象は拭えませんが、近年、日本でも不況、失業、モラルの低下や暴力などの問題が深刻になり、退廃的な生活をおくる人間に対しての嫌悪感を持つ主人公の気持ちに共感できる人も多いかもしれません。そして、退廃的、終末的な街の風景を彩るジャズフィーリング溢れる美しい音楽も印象的です。この作品のサウンドトラックは映画と同様に高い評価を得ていて、かなりのセールスを記録しました。暗く重い作品ですが、何度でも観たくなる魅力のある名作です。ただし、バイオレンスシーンが生々しいので、グロ系の描写が苦手な人はパスした方がいいかもしれません。
奴らを根こそぎ洗い流す雨は、いつ降るんだ
タクシードライバーの仕事で街の退廃の酷さを目にしているトラヴィスがつぶやきます。世の中に悪がはびこり、洪水で人間が滅ぼされたという聖書の『ノアの日の洪水』をイメージしているのでしょう。あまりにも悪人が多い町に住むとそんな気持ちになるのも仕方が無いような気がします。私も以前住んでいた町が大嫌いでソドムとゴモラの町のように火で焼き尽くされればいいと思っていた事があります。
人間なんてなるようにしかならんよ
トラヴィスが会社の先輩に、将来について相談すると、こんな言葉が返ってきます。あまりに悲観的な意見にも聞こえますが、この言葉が、この時代に生きていた貧乏人の本音なんでしょう。今、アメリカは、更に格差が広がり、貧乏人には貧困から抜け出す出口がありません。日本も同じです。貧困から抜け出そうとしても社会のシステムがそうはさせてくれません。デモで反抗しても刑務所に入れられるだけですから、悲観的でも、なるようにしかならないと開き直った方が、気持ちが楽かもしれません。