芸術家の領域へ
1965年発売のビートルズの通産6枚目のアルバム。前作までは、彼らが影響を受けたアーティストのカヴァーが収録される事が多く、まだ50年代のアーティストの影響から抜け出せていない印象がありましたが、このアルバムでは、ビートルズのメンバーの作曲家としての才能が新たな領域に進化した事がハッキリと感じられる作品で、ロック史に残るスタンダード曲『ノルウェーの森』『ミッシェル』『ガール』『イン・マイ・ライフ
』などを収録しています。彼らが大きな影響を受けた50年代のロックのスタイルを継承するようなアレンジの曲よりも、ビートルズのロックバンドとしてのセンス、曲のメロディを生かすアレンジが強い個性を生み、ビートルズがポップスターからアーティストへ進化した事をアピールするような名盤です。ローリング・ストーン誌が選ぶ名盤100でも5位にランクインしている名盤であり、このアルバムを境に前期と後期に分けて考えるファンも多いようです。初期の作品は音も悪いし、まぁいいか、と考えているロックファンも、このアルバム以降のビートルズの作品は、全て揃えておきたいところでしょう。前作までは、50年代のロックスタイルを進化させたようなアレンジの曲が多く、ちょっと古臭いイメージの曲が多いですが、このアルバムのアレンジセンスは、古いスタイルを捨てて自分たちのオリジナリティを作り出そうという意気込みが感じられますし、実際に、現代のロックミュージシャン、ポップスターのほとんどは、自分たちは意識していなくても、このアルバムのアレンジセンスに少なからず影響を受けているはずです。そして、何と言ってもメロディがいいですね。様々な楽器を取り入れて、新しいスタイルを築きながらも、全てがメロディを引き立てるためにあるという所も凄いと思います。
正直な所、デビューアルバム『プリーズ・プリーズ・ミー 』から『4人はアイドル 』までは、LPからCDに買い換える際に後回しにしていましたが、このアルバム以降の作品は、すぐに買い換えました。ビートルズファンには怒られてしまいそうですが、前作『4人はアイドル 』までのアルバムは、ビートルズの人気が社会現象になり、アイドル的な人気と知名度の勢いでレコードが売れたという面も少なからずあると思います。しかし、このアルバムは、今聴いても本当に凄いアルバムです。熱狂的なビートルズマニア以外の人にとっても、このアルバムは特別な存在感があると思います。
名曲、ヒット曲が多い作品ですが、映画『スクール・オブ・ロック 』のクライマックスに演奏される曲のコーラスが、このアルバムに収録されている『ユー・ウォント・シー・ミー』のアイディアをそのまま使っているあたりにも、その影響の大きさが感じられます。パックっているというよりは、ビートルズのコーラスワークに対して敬意を表しているような雰囲気があり、今さらながらビートルズの影響力の大きさに感心してしまいます。