2002年アメリカ作品。監督は『マグノリア』などのポール・トーマス・アンダーソン、出演は『ウエディング・シンガー』『再会の街で』の
アダム・サンドラー、『レッド・ドラゴン』のエミリー・ワトソンなど。繊細すぎる性格ゆえにかんしゃく持ちの青年と、バツイチ女性の純愛を描いた恋愛映画。
『ブギーナイツ』『マグノリア』など衝撃的な作品の監督として、日本でもカルト的なファンの多いポール・トーマス・アンダーソンが、コメディ系のヒットメーカーとしてアメリカで絶大な人気のある俳優
アダム・サンドラーを起用した恋愛映画です。一応恋愛映画ですが、ポール・トーマス・アンダーソン監督らしい斬新な切り口で、現代社会の病理を浮き彫りにした作品なので、恋愛映画というよりは、他人に気配りが出来なくなった現代社会を風刺した社会派作品と考えてもいいかもしれません。主演の
アダム・サンドラーは、コミカルな演技を求められて主演したというよりは、普段はおとなしい人間が突然切れるキャラクターにピッタリという理由で起用されたらしく、コメディ的な要素は少なく、『ウエディング・シンガー』『ビッグ・ダディ』のようなコメディ作品とは全く違った趣のある作品です。ちょっと派手な音、唐突でショッキング映像は、観客の眠気を妨げる為というよりは、主人公バリーの繊細な感性を観客にも体感してもらう為に、大げさにしているらしく、そんな映像手法は、現代社会の生活の中で鈍感になってしまっている私たちの目を覚まさせる為かもしれません。バリーの姉たちは、他人の気持ちに配慮せず、デリカシーの無い態度で人を傷つけ、人の感情を無視している人間を象徴していますし、テレフォンサービスでのトラブルは、違法な商売で人を苦しめるような会社が、弱者を虐げている現状を象徴しているような気がします。主人公バリーの恋愛を描いた純愛映画としても観る事ができますが、恋愛のエピソードにドラマティックな要素は少なく、プラトニックな恋愛でもないので、恋愛映画、コメディ映画として期待すると、ちょっと裏切られるかもしれません。
主人公のバリーは、悪質な会社に因縁をつけられて金を奪われてしまいますが、テレホンサービスに限らず、訪問販売、ワンクリック詐欺など、現代社会では詐欺の被害によって苦しんでいる人が大勢いいます。最悪なのは、こういう悪質な業者が、開き直って強気な態度で脅しをかけてくることです。まだ20歳ぐらいの時に、私も一度、頼んでもいない商品を配達され、クレームの電話をを入れた時に逆切れされたので、怒り狂ってバットを持って殴りこみに行った事があります。さすがに、バットを振り回されてビビッたらしく、責任者が謝罪したので殴らずに帰りましたが、私のように過激な人間は少数派で、ほとんどの人は、泣き寝入りだと思います。現代社会のの病理の一つだと思いますが、こんな詐欺にあった方なら、この作品の主人公バリーに共感できると思います。
世の中みんな狂ってる
言いがかりをつけられ、殴られ金を盗まれたバリー、更に、リナまでトラブルに巻き込まれてしまいます。法律を無視して、暴力によって弱者から金を奪うような人間が、幅をきかせている現代は、まともな人間にしてみれば、狂っているとしか言いようがありません。私のような暴力的な人間なら報復することもできますが、善良で心の広い人間は泣き寝入りするしかありません。一番怖いのは、みんなが、こういう状況に慣れてしまって、狂った世の中が当たり前と感じるようになる事かもしれません。