1971年日本映画。監督は『学校』『息子』『幸福の黄色いハンカチ』の山田洋次。出演は、渥美清、倍賞千恵子、森繁久彌など。日本を代表する長寿シリーズ『男はつらいよ』の6作目。
3作目と4作目を他の監督に任せた山田洋次監督は、5作目の『男はつらいよ・望郷篇』で監督に復帰し、5作目を最終回にするつもりだったようですが、あまりの人気で、本作以降もシリーズ化が続く事になります。5作目の『男はつらいよ・望郷篇』が、最終回として観ても十分な力作だった為、本作は、ちょっと印象が弱い作品になってしまいましたが、森繁久彌さんが演じる頑固な父親の存在感、心に残る名言など、なかなか充実した作品です。今回は、寅さんの恋愛よりも、夫との不仲で出戻りしてしまった絹代と、彼女の父親である千造の親子の愛情や、会社を辞めて独立しようとする博さんのエピソードが印象に残る作品になっていて、出戻り娘に厳しい言葉で愛情を表現する千造を演じている森繁久彌さんの存在感に感心させられますし、独立しようとする博に対して、自分たちの事よりも、タコ社長や朝日印刷の社員たちの事を優先して考えるさくらさんの優しさも感動的です。ただし、初期の作品の中では、寅さんの恋愛的な要素が弱いので、寅さんの恋愛を楽しみたい方には、不満が残るかもしれません。
出演時間は短いものの、1991年に文化勲章を授与された森繁久彌さんの好演が、この作品の一番の見所かもしれません。私が子供の頃には、すでにおじいちゃん役での出演が多く、俳優としての全盛期は知らないのでですが、この作品の演技、存在感には驚かされます。娘に対して厳しい態度で突き放す姿、心に残る名言も凄いですが、寅さんを演じる渥美清さんとの相性も最高で、だらしのない格好で鼻水を垂らしながら、娘からの電話を喜ぶ姿は、『男はつらいよ』シリーズの中でも、名場面として強く印象に残ります。
どんな男と一緒になったって、同じたい
親の反対を押し切って結婚した娘が、夫に愛想を尽かして実家に帰ってきますが、父親は厳しい言葉で娘にアドバイスします。夫婦の間でケンカやトラブルがあるのは、どこの家庭でも同じです。ちょっとした事で相手を赦せずに別れてしまうなら、どんな相手と結婚しても結果は同じでしょう。人間誰しも欠点がありますが、逆にいい面も持っています。夫婦として人生のパートナーになったら、相手のいい面を伸ばしてやるように努力し、欠点を赦してあげる事も重要だと思います。
帰れるところがあると思うからいけない
近年、海外で活躍するスポーツ選手が増えてきましたが、海外で通用せずに、日本に戻ってきてしまう選手も少なくはありません。失敗しても帰れるところがあるという甘えから、ベストを尽くせずに失敗している選手も多いような気がします。失敗しても温かく迎えてくれる人がいるというのは、ありがたいことですが、そんな環境に甘やかされ過ぎると、いつまでも1人前になれないのかもしれませんね。
危険を怖がってちゃダメだよ、人生は賭けだ
博さんは、会社を辞めて独立を考えています。仕事の選択や結婚など、人生には大きな岐路が何度か訪れますが、何を選ぶかは賭けのようなものです。手堅い選択をしても期待通りに物事が運ぶとは限りませんし、全くリスクの無い人生はありえません。無難な道ばかり選んでいては、何も手に入らないかもしれません。
私たちの生活なんて、嘘だらけなのね
相手の顔色ばかりうかがって、本音を言わずに嘘をつきながら生きているような人生は、本当に疲れると思いますが、上流社会では、そんな生活が当たり前になってしまっているのかもしれません。貧乏人と呼ばれる下層階級の人間、肉体労働に従事している人の方が、本音で人と付き合えるという意味では幸せなのかも。